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元奴隷から愛される異世界生活。  作者: ChaCha


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女神に向けられる視線

最初に異変に気づいたのは、

重鎮でも、神官でもなかった。


――兵士だった。


即位式の場。

祝福の声が上がり、王冠が掲げられ、

誰もが新たな王へと視線を向けていた、その最中。


一人の若い兵士が、息を呑んだ。


「……光ってる」


誰に言うでもなく、漏れた声。


隣の兵士が、怪訝な顔で同じ方向を見る。

次の瞬間、言葉を失った。


横たわるようにクッションへ身を預け、

面倒くさそうに――本当に、あまりにも自然に――

王の頭へ王冠を“ぽすん”と置いた女。


その身体が。


淡く、確かに、光っていた。


反射ではない。

魔具の効果でもない。

祝祭の演出でもない。


内側から。


呼吸に合わせて、

鼓動に寄り添うように、

ゆっくりと、柔らかく。


「……女神、だ」


誰かが言った。


否定する者はいなかった。


むしろ、

その言葉を“待っていた”かのように、

場の空気が、すとんと落ち着いた。


――ああ、そうか。

――だから、あの戦争は終わったのだ。


神は我らを見捨てた。

そう思い、祈りを捨てかけた夜は、一度や二度ではない。


国として、

アグナス王国は“奴隷”だった。


重税。

監視。

誇りを奪われ、名を奪われ、

ただ生き延びるだけの存在。


だが。


その絶望の底に、

女神が降りた。


しかも――

選んだのだ。


この国の王を。


ざわり、と視線が動く。


正装したルイ殿下。

王となった男。


彼は、誇らしげだった。

だが、威圧はない。

力を誇示するでもない。


ただ。


女神を見上げる、その瞳だけが、

異様なほどに深かった。


――理解している者の目だ。


騎士団長が、震えを隠せずに歯を食いしばる。


蒸発した戦場。

消えた敵軍。


あの光景を、彼は忘れられない。


だが。


もし。


もし、あの女神が――

指先ひとつ、動かしたなら?


国が、消える。


それほどの力を、

彼女は持っている。


なのに。


救った。

癒した。

強化し、支え、

誰ひとり欠けないように、手を差し伸べ続けた。


だからこそ。


恐怖より先に、

敬意が膝を折らせた。


「……女神さま」


誰かが、そう呼んだ。


次の瞬間、

それは場全体へと広がる。


女神さま。

護り神。

選ばれし方。

我らに微笑んだ存在。


即位式は終わっていた。

だが、

信仰は、ここから始まった。


子どもたちが、無邪気に手を振る。


「めがみさまー!」

「きらきらしてる!」

「だいすきー!」


止める者はいない。


むしろ、

大人たちが静かに頭を下げる。


――我らは、愛されている。


それを、

骨身に染みて知っているから。


その頃。


すでに、砦の片隅では、

匠が石を削り始めていた。


参考は、記憶。

一瞬の光。

あの“ぽすん”という所作。


「……急げ」


「女神像だ」


誰も、止めなかった。


女神は、もういる。

ならば、形にするのは当然だ。


王が選ばれた国。

女神に愛された民。


アグナス王国に生きるということの意味が、

この瞬間、変わった。


――我らは、選ばれたのだ。


横になり、

面倒くさそうに王冠をのせた女神さまに。



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