表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
元奴隷から愛される異世界生活。  作者: ChaCha


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

89/165

即位式当日

……おかしい。


これは、どう考えても、おかしい。


「……私が、この姿勢で?」


声に出した瞬間、自分でも分かるくらい間の抜けた響きだった。


視界の端で、白と金を基調にした天蓋がゆるやかに揺れている。

その下。

私は――


「……横になってるよね?」


ふわふわのクッション。

身体を預けると、沈み込む柔らかさ。

背中が楽。

すごく、楽。


まるで。


まるで――

女神さまが面倒くさそうに寝っ転がっている構図。


「いや、ちが……」


ちがくない。

完全に、そう。


私の右手には、ずっしりとした重み。

金と宝石で彩られた、アグナス王国の王冠。


それを。


「……ルイの頭に?」


ぽすん。


軽く置く役目。


「え?普通、立ってる人がのせない?」


小声で言ったつもりが、やけに響いた気がした。


「というか……神官とか……偉い人が王様に王冠をのせるよね?」


ね?


左を見る。


……。


誰も、私と目を合わせない。


視線が、空を泳ぐ。

壁を見る。

天井を見る。

床の紋様を急に研究し始める。


「ねぇ?」


右を見る。


……。


全員、膝まづいている。


右手を心臓に当て、

深く、深く、頭を垂れて。


……祈ってる。


「え、ちょ、待って」


待って。

なんで祈ってるの。

私、錬金術師だよ?


前を見る。


――そこに、ルイがいた。


正装。

黒を基調にした王族の礼装。

金の刺繍が、光を抑えて静かに輝いている。


背筋は真っ直ぐ。

姿勢は完璧。

砦の石壁みたいに、揺るがない。


その視線が、私を捉えている。


逃げない。

逸らさない。

むしろ、誇らしげ。


……なんでそんな顔。


高らかな声が、広間に響いた。


「――ここに、宣言する」


石造りの広間。

高い天井。

ステンドグラスから差し込む光が、ゆっくりと床を染める。


「ディバン帝国の圧政より解放されし、旧アグナス王国は――」


空気が、張り詰める。


「今ここに、新たな王を戴く」


ざわり、と。

しかしすぐに、静まり返る。


「ルイ・アグナス」


名が呼ばれる。


「その統治と責任を、この王冠に託す」


……託す、って。


私に。


「……私が?」


小声で呟いた瞬間。


視線が、さらに集まった。


まずい。

すごくまずい。


でも、進行は止まらない。


ルイが、ゆっくりと一歩、近づく。

私を見上げる位置で、静かに跪いた。


……跪いた。


王になる人が。

私の前で。


「……ダメでしょこれは」


思わず漏れた。


後ろ。


「よっ!女神さまっ!」


軽い声。


レオだ。


振り向いて睨む。


「やめて」


「ははっ」


笑顔だ。

完全に楽しんでる。


前を向く。


ルイと、目が合った。


――満面の笑み。


なんで。

なんでそんなに嬉しそうなの。


「……もう」


逃げ場はない。


私は、王冠を持ち上げる。

思ったより、重い。


それを。


「……えい」


ぽすん。


――ルイの頭に、王冠が収まった。


その瞬間。


歓声。


祝福。


拍手。


祈り。


「アグナス王国に、祝福を――!」


「王に、栄光を――!」


砦にいるすべての者が、声を上げる。


ルイが、ゆっくり立ち上がる。


王冠を戴いた姿。

背筋が、さらに高く見える。


誇らしげに、堂々と。


……うん。

王様だ。


一方。


私は。


ふわふわクッションに寝っ転がったまま。


「……駄女神感がすごい」


自分で言って、ため息が出た。


広間のあちこちから、声が聞こえる。


「女神さまー!」


「こちらへ目を向けてください!」


子どもたちの声。


「めがみさま、すごくキラキラしてる!」


……キラキラ?


その瞬間。


「あ」


気づいた。


気持ちが高ぶると。


――身体が、少し光る。


淡く。

柔らかく。

魔力が、勝手に漏れてる。


「……やば」


早急に。

早急に。


「早急に、光る身体を治さねばならない!!」


小声で言ったつもりが、完全に聞こえていた。


「……つ、詰んで……」


一拍。


「……ないから!まだ!」


自分に言い聞かせる。


即位式は、そのまま滞りなく進んだ。


祝福の言葉。

宣誓。

新王の言葉。


私は、途中から半分、現実逃避していた。


でも。


広間を満たす熱。

祝福の空気。

誰もが、未来を見ている目。


……この国は、前に進んでる。


それだけは、分かった。


即位式が終わり。

王となったルイが、私を見る。


また、笑う。


……絶対、後で言われる。


「王冠を戴かせてくれて、ありがとうございます」とか。


「女神様に選ばれて光栄です」とか。


「俺の女神様」とか。


「……詰みかけてる」


いや。


まだ。


「……まだ、詰んでない」


そう思いたかった。


クッションに寝っ転がったまま、

王の即位を終えた女神(仮)は、

必死に現実と戦っていた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ