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元奴隷から愛される異世界生活。  作者: ChaCha


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熱で火照る君

砦の奥。

治癒魔術師たちの部屋は、夜だというのに灯りが落とされていなかった。


薬草を煮詰める匂い。

魔力を安定させるための陣が床に幾重にも描かれ、淡い光が呼吸するように明滅している。

空気が、熱を含んで重い。


ベッドの上。

白いシーツに横たわる彼女――メイは、静かに眠っていた。


いや。

眠っている、というより。


……燃えている。


額に浮かぶ汗。

頬は火照り、呼吸は浅く、けれど規則正しい。

魔力が、身体の内側を巡るたび、空気がわずかに震える。


「……数値が、おかしい」


治癒魔術師の一人が、思わず漏らした声は掠れていた。


「魔力量が……増えています」

「しかも、回復と同時に……自己修復が、進化している……?」


ありえない。

常識では。


だが。


俺は、唇を噛んだ。


――理解、してしまった。


最大強化。

あの時、彼女が作った“あれ”。

命を削り、器を拡張し、限界を押し広げる狂気の錬金。


そして、治癒ポーション。


……組み合わせたのか。


脳裏で、理論が弾ける。

メイから教え込まれた錬金術式。

助手として、弟子として、横で見てきた工程。

彼女の癖。

彼女の発想。


治癒で“戻す”のではない。

壊れた瞬間に、より強い形へ“再構築する”。


「……本当に」


喉の奥から、乾いた息が漏れた。


俺の、女神様はおかしい。


常識を超える。

理屈を置き去りにする。

それでも、必ず“誰かを救う方”へ転ぶ。


治癒魔術師たちは、必死に魔力の流れを整えながらも、恐怖と畏敬を隠せずにいた。

彼らは気づいている。


これは、治癒ではない。

進化だ。


「殿下……」


声を掛けられたが、俺は応じなかった。


視線は、彼女から離れない。


この熱。

この鼓動。

この、膨れ上がっていく存在感。


本当に……女神になるつもりか。


俺は、ゆっくりと歩み寄った。

陣を踏まぬよう、静かに。

誰にも触れさせない距離まで。


治癒魔術師たちは、察したように一歩退いた。


近くで見ると、なおさらだ。

彼女の魔力は、皮膚のすぐ下で光を孕んでいる。

熱が、俺の指先にまで伝わってくる。


「……メイ」


名を呼ぶと、彼女の眉が、かすかに動いた。

だが、目は開かない。


唇が、少し乾いている。


俺は、一瞬だけ躊躇した。


王として。

理性として。


……だが。


失う恐怖が、すべてを押し流す。


そっと、顔を近づける。

彼女の吐息が、俺の頬をかすめる。

熱い。


一度だけ。

触れるだけだ。


俺は、瞳を閉じ、

静かに、彼女の唇へ口付けを落とした。


深くはしない。

奪わない。


ただ、確かめる。


――ここにいる。

――生きている。


彼女の呼吸が、わずかに乱れた。


それだけで、胸の奥が軋む。


「……戻ってこい」


誰にも聞こえない声で、そう呟く。


女神になど、ならなくていい。

世界を救う存在など、望んでいない。


ただ。


俺の、そばにいろ。


額を、そっと彼女の額に寄せる。

熱が、交わる。


治癒魔術師たちの陣が、静かに輝きを強めた。


夜は、まだ深い。

即位式まで、時間はない。


そして俺は、知っている。


この熱が引いた時。

彼女は、もう“元のメイ”ではない。


それでも。


――失うよりは、ずっといい。


俺の、女神様はおかしい。


だが。


この狂気ごと、抱き締める覚悟は、

とうにできている。


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