捕らえた者たち
地下は、いつも同じ匂いがした。
湿った石。
古い鉄。
そして、人の恐怖が染みついた空気。
砦の最下層。
光は最低限。
燭台の火は揺れない。
――揺らす必要がないほど、空気が重い。
鎖の音が、短く鳴った。
「……まだ生きているな」
ルイの声は、低く、平坦だった。
感情は、ない。
あるのは確認だけだ。
床に転がる人影が、わずかに身じろぎする。
呼吸は浅い。
意識は、ある。
それでいい。
「今日は、三人」
そう告げると、周囲にいた者たちが一斉に動いた。
躊躇はない。
命令でもない。
察している。
ここで何が行われるかを。
扉が閉まる。
外界の音が、完全に遮断される。
最初の音は、鈍い衝撃だった。
骨が折れる音ではない。
もっと、内側に響く、空気を叩くような音。
短い悲鳴。
すぐに、途切れる。
「……次」
ルイは、位置を変えない。
目線も動かさない。
一拍。
二拍。
金属が床を引きずる音。
何かが倒れる気配。
呻き声が、長く続いた。
それが、徐々に細くなる。
「回復」
淡々と告げる。
治癒の光が、淡く灯る。
折れたものが繋がる。
裂けたものが塞がる。
――生かす。
生かして、続ける。
「……日数、数えなくなったな」
誰かが、ぽつりと呟いた。
ルイは、答えない。
何日か。
何回目か。
そんなものは、どうでもいい。
大切なのは――
終わらせることだ。
メイの両親が来る。
シルヴァ家が、砦に入る。
その前に。
「……間に合わないな」
次の人影が引き出される。
視線が合った。
恐怖で濁った目。
命乞いの言葉が、口の中で詰まっている。
ルイは、少しだけ首を傾げた。
「胸に、刃を入れたな」
問いではない。
確認だ。
答えは、返らない。
返せる状態ではない。
「……楽にする気は、ない」
判断は、速い。
合図もない。
次の瞬間、空気が裂けるような音がした。
短い。
だが、重い。
床に落ちる音。
呼吸が乱れる。
「回復」
また、光。
また、繰り返し。
ルイは、手袋を外した。
指先に、微かな熱が残っている。
――足りない。
ふと、思う。
「……しまった」
誰に向けた言葉でもなく、独り言のように。
「一匹、残しておいて飼えばよかったな……」
周囲が、一瞬、静まる。
だが、誰も笑わない。
誰も否定しない。
それが、今の王だと理解しているからだ。
「次で終わりにする」
告げると、動きが速くなる。
もう、余裕はない。
シルヴァ家が来る。
メイの世界に、こんなものを混ぜるわけにはいかない。
最後の音が、短く響いた。
それで、終わった。
地下に残ったのは、静寂だけだ。
ルイは、上を見上げる。
石の天井の、さらに向こう。
――メイ。
「……遅くなりました」
誰にともなく呟き、踵を返す。
この国を、
彼女の居場所を、
汚したものは――
もう、いない。
そして。
砦の外では、
何も知らないまま、
愛する人の家族が、近づいていた。




