詰みかけの身体
あれから私は、数日。
ベッドの上だ。
起き上がれないわけじゃない。
喋れるし、考えられるし、手も動く。
でも。
起き上がろうとすると、必ず止められる。
ルイに。
甲斐甲斐しい。
という言葉が、これほど似合う人がいるだろうか。
水。
食事。
体調の確認。
毛布の位置。
枕の高さ。
全部、完璧。
「王様って、ここまで世話焼くっけ……?」
なんて思うけど。
本人は至って真顔だ。
治癒魔術師の診断は、こうだった。
「……まだ、安静が必要です」
え。
そんなに?
「治癒自体は進んでいますが」
「魔力の巡りが、完全とは言えません」
魔力の巡り。
その単語に、ちょっとだけ引っかかる。
私は、心臓を貫かれた。
確かに。
でも。
特製ポーションも飲んだし。
治癒魔術師も全力だったし。
……もうちょっと、動けてもよくない?
ルイも、同じことを言う。
「まだ安静が必要です」
「治癒が完全ではない」
「魔力の巡りが不安定だ」
同じ言葉。
同じ順番。
同じ声音。
これは……。
えー?
そんなに詰みかけの身体なの?
私は、天井を見つめながら考える。
ポーション、作ろうかな。
いや。
普通に。
自分の身体だし。
自作の調合なら、状態を正確に把握できるし。
「……自作でポーション作ろうかな」
そう言った瞬間。
ルイの空気が、変わった。
目に見えるわけじゃない。
でも、分かる。
ぴし、と。
見えない何かが張り詰めた。
「それは……」
一瞬、言葉を選ぶ間。
その間が、妙に長い。
「今は、やめてください」
強い否定じゃない。
でも、譲らない声音。
あれ?
私は、少しだけ眉を寄せた。
メイ
「そんなにダメ?」
答えは、すぐに返ってこない。
代わりに。
いつもより、丁寧に布団を直される。
逃げ道を塞ぐみたいに。
でも、触れ方は優しい。
……あれ?
私、思った。
もしかして。
やっぱり、かなり詰みかけたままなのかもしれない。
そう思うと、妙に納得がいく。
心臓。
魔力。
戦場。
無理。
そりゃ、無理だ。
私は、小さく息を吐いた。
「……外、出たらだめ?」
自分でも、軽い調子だったと思う。
散歩、くらいの気持ち。
でも。
ルイは、即答しなかった。
ほんの一瞬。
でも、確かに。
時間が、止まった。
「……無理をした」
低い声。
「……あれは、命を削る行為でした」
「今は、休むことが最優先です」
静か。
でも、揺るがない。
言い聞かせるようで。
同時に、自分自身にも言っているみたいな声。
なるほど。
私は、理解する。
ああ。
やっぱり。
私、思ってた以上に詰みかけたままだ。
だから、こんなにも。
過保護なんだ。
ルイは、悪くない。
むしろ、正しい。
そう思うと、変に逆らう気も起きなかった。
メイ
「……そっか」
頷く。
ルイの肩が、ほんの少しだけ下がった。
安心したのが、分かる。
……不思議だな。
王様に。
元奴隷だった人に。
ここまで心配される日が来るなんて。
私は、枕に頭を沈めた。
まだ、身体は重い。
確かに。
でも。
生きてる。
それだけで、十分だよね。
「……やっぱり詰みかけてる?」




