この血に賭けて護りたい人
戻った。
それだけで、胸の奥に溜め込んでいた息が、ようやく吐けた。
生きている。
メイは、生きている。
砦の一室。
白い布。
静かな呼吸。
あの光景を、何度も思い出す。
心臓を貫かれ、
倒れ、
世界が止まったあの瞬間。
あれを見て、平気でいられる人間なんていない。
俺は鬼神と呼ばれるようになったらしい。
笑える。
守れなかったくせに。
だが――戻った。
それが、すべてだ。
だから、俺は一歩引いた場所に立つ。
ベッドの傍ではない。
手を取る位置でもない。
視界に入る距離。
それでいい。
……いや。
それしか、残されていない。
ルイの変化は、誰よりも先に分かった。
視線。
距離。
呼吸。
全部だ。
あいつは、もう“護衛”じゃない。
“主従”でもない。
獲物を見る目じゃない。
守る目でもない。
――失えないものを見る目だ。
あの視線を、俺は知っている。
戦場で、
仲間を背に庇いながら、
もう一歩も退けない時の、あの目。
奪う側には、もう回れない。
それを、はっきり悟った。
もし俺が、
あいつからメイを引き離そうとしたら。
剣を抜くことになる。
勝てるかどうかは、問題じゃない。
壊れる。
この国も、
この砦も、
メイ自身も。
だから、俺は動かない。
……だが。
護るのを、やめるわけじゃない。
剣は、捨てない。
メイの隣は、もう俺の場所じゃない。
それでも。
絶対に目を離さない。
戦場でも、
政治の場でも、
日常の中でも。
一歩後ろ。
半歩斜め。
そこが、俺の立ち位置だ。
それでいい。
血が騒ぐ。
護れ、と。
この血は、
ただの腕力のためにあるんじゃない。
命を刈るためでもない。
護るために流れている。
メイが目を覚ましたとき、
最初に探した視線が、俺じゃなかったことに。
少しだけ、胸が痛んだ。
だが。
それでいい。
彼女が生きているなら。
彼女が、笑えるなら。
俺は、傍にいる。
この先。
ルイは王になる。
メイは、その隣に立つ。
子が生まれ、
孫が生まれ、
時代が巡っても。
――護る。
俺が死んだら?
その先は?
簡単だ。
血を、残す。
剣を、残す。
意志を、残す。
俺の子に。
その子に。
そのまた子に。
王妃の血を護れ。
そう教える。
それは、忠誠じゃない。
義務でもない。
……執着だ。
だが、それでいい。
これは、俺の狂気だ。
愛を手放さず、
奪わず、
それでも離れない。
そう決めた男の、
一生分の覚悟だ。
俺は、剣に手を置く。
今日も。
明日も。
最後まで。
――護る。
この血に賭けて。
レオ




