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元奴隷から愛される異世界生活。  作者: ChaCha


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初めて「人影」を見る瞬間

夜明け前の空は、まだ青と黒の境目だった。

木々の隙間から、星がいくつか瞬いている。


私は立ち止まり、空を見上げた。


……落ち着け。

大丈夫。

まだ、使える。


七星。

ひしゃくの先。

二つの星を結んで、伸ばして――


あった。


動かない星。

ステラ星。


あそこが北。

じゃあ、地図を――


マジックバッグから地図を取り出し、

星に合わせてくるりと向きを揃える。


手が、少し震える。

寒さのせいか、緊張のせいか。

多分、両方。


尾根の影。

谷の位置。

遠くに、ぼんやり見える山影。


……合ってる。


少なくとも、

「完全に逆」は行ってない。


「……よし」


声に出すと、

少しだけ、現実感が戻った。


魔物よけのポーションを、

腕と首元にふりふり。

独特の匂いが、鼻をくすぐる。


水を、ちまちまと補給。

一気に飲むと、後が怖い。


慎重に。

静かに。

影を選んで進む。


夜の森は、

音が大きい。


枝を踏む音。

布が擦れる音。

自分の呼吸。


全部、敵みたいに感じる。


だから――

その音を聞いた時、

一瞬、心臓が止まった。


「……っ」


微か。

本当に、かすかな――


呻き声。


……え?


耳を澄ます。

風じゃない。

獣でもない。


「……人?」


嫌な予感しかしない。


慎重に、音の方へ近づく。

木の影から、そっと覗く。


そこにいたのは――

冒険者風のおっさんだった。


……血塗れ。


鎧は歪み、

服は裂け、

地面に、黒ずんだ血が広がっている。


息も、絶え絶え。


「や、や、や、やばい……」


心の中で、警報が鳴り響く。


これ、関わったら――

絶対、面倒なやつ。


よし。


見捨てよう。


私は、

今、生きるので精一杯。


他人を助ける余裕?

ない。

ゼロ。


「ごめんなさい……」


小さく、心の中で謝る。


本当に。

許してください。


私は、

そっと、後ずさり――


……。


……あれ?


気が付いたら。


手に、ポーション。

もう一本。

さらにもう一本。


マジックバッグから、

勝手に出てる。


私、

地面に膝をついてる。


……え?


思考が追いつく前に、

身体が動いていた。


傷口に、ポーションをかける。

血が、引いていく。


水を、

ちまちまと口元へ。


「……はぁ……」


なんで?


なんで、こうなった?


理性は、

「やめろ」って言ってるのに。


数分後。


「……恩に着る」


掠れた声。


目を開けたおっさんが、

こちらを見た。


……生きてる。


次の瞬間、

そのまま、ぱたりと意識を失った。


……。


……よし。


もういいよね?


治療した。

生きてる。

それで、十分。


「では、さらば!

 おっさん!!」


心の中で、

盛大に手を振る。


達者でな!!


私は、

立ち上がり――


……。


………。


足が、止まった。


結局。


外套を、

そっとかけて。


寒くないように。


魔物よけのポーションを、

周囲にふりふりして。


気が付けば、

おっさんのそばで、座り込んでいた。


「……はぁ……」


ため息しか、出ない。


どうして、

こうなるの。


独り立ちしたはずなのに。

ボッチ街道まっしぐらのはずなのに。


……見ず知らずのおっさんを拾ってる。


森の奥で、

夜明けの光が、少しだけ強くなった。


これが――

初めて見た、人影。


そして、

どうやら私は、

放っておけない性分らしい。


……ほんと、勘弁して。



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