御守り
生きている。
その事実が、まず不思議だった。
目を開けた瞬間、天井が見えて。
石造りの、砦の部屋。
見慣れたはずなのに、どこか遠い。
息を吸うと、胸が痛い。
でも、吸える。
……生きてる。
次の瞬間、遅れて、恐怖が来た。
あ、
私――死んでた。
いや。
死にかけてた、じゃない。
確実に、あれは――
“詰んだ”瞬間だった。
「……詰みかけ!」
声に出して、ようやく実感が追いつく。
詰んだ。
うん。
あの時は、確実に。
心臓を貫かれた感触。
身体の奥が冷えていく感覚。
視界が暗くなっていく速度。
今になって、全部、戻ってくる。
遅れてきた恐怖に、喉が詰まった。
その時。
ぎゅ、と。
腕が、強く、身体を包んだ。
離れない。
本当に、離れない。
顔を動かすと、すぐ傍に、ルイがいる。
目の下に、濃い影。
一晩どころじゃない顔だ。
反対側には、レオ。
壁にもたれかかりながら、だが確実に視界に入る位置。
……ああ。
「ふたりが……私の御守り、だったんだ」
ぽつりと零した言葉に。
ルイの腕が、ほんの一瞬、強くなる。
レオが、苦笑した。
「やっと気づいたか」
「遅すぎるくらいだ」
そう言われて、妙に納得する。
あの特製ポーション。
2本しか作れなかった、切り札。
1本目は、
……正直に言えば、もう“遅かった”。
死んでいたら、意味はない。
それは、私が一番よく分かっている。
でも。
2本目は、違った。
ルイが、時を止めて。
世界を殴って。
私を“繋ぎ止めた”からこそ。
効いた。
御守りは、ポーションじゃなかった。
人だった。
「なるほどね……」
小さく呟いた瞬間。
レオとルイが、同時に笑った。
同じタイミング。
同じ温度。
……あ、これ、ズルい。
戦争は、終わっていた。
それも、拍子抜けするほど、あっさりと。
圧勝だったらしい。
詳しい話は、まだ聞いていない。
聞かせてもらえていない、の方が正しいのかもしれない。
ただ。
兎にも角にも。
私は、生き延びた。
それだけで、今は十分だ。
……なのに。
砦の中を歩くと、空気が違う。
通路ですれ違う人たちが、立ち止まる。
視線が、集まる。
深く、頭を下げられる。
困る。
すごく、困る。
「……すごく……感謝されてることは、伝わる」
そう言うと。
レオが、肩をすくめた。
「伝わるだけで済んでるなら、まだマシだな」
「本当は、もっと酷いぞ」
ルイは、静かに言った。
「皆、命を救われたと理解しています」
……重い。
理解はできる。
でも、実感が追いつかない。
私は、私ができることをやっただけだ。
生き残りたかったし。
守りたかったし。
詰みたくなかった。
それだけ。
なのに。
世界は、もう、そうは見てくれないらしい。
ルイの腕が、相変わらず離れない。
レオも、距離を取らない。
守られている、というより。
……いや。
このまま進んだら、
“気が付いたら最後”の位置に立つ気がして。
胸の奥が、ひやりとした。
私は、息を吸って、吐く。
生きている。
それだけで、今は、十分――
……のはずなのに。
世界が、もう一段、先へ進んでいる気配だけが。
確かに、そこにあった。




