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元奴隷から愛される異世界生活。  作者: ChaCha


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王の咆哮

止まっていた。


世界が、完全に。


音も、風も、血の流れも。

叫びすら、途中で凍りついたまま。


俺の視界の中心にあるのは、ただ一つ。

横たわる、彼女。


冷たい。


いや。

冷たくなりかけている。


時間を止めた。

正確には――止め続けている。


魔力が、身体の奥で軋んでいた。

骨が悲鳴を上げ、神経が焼き切れそうになる。


それでも、止めるわけにはいかなかった。


この瞬間が、流れ出したら。

彼女は、完全に――


俺の手が、震える。

それでも、離さない。


指先に触れる感触を、必死に拾う。

皮膚。

体温。

残っている、わずかな鼓動。


――ある。


まだ、ある。


それだけで、視界が歪んだ。


怒りでも、悲しみでもない。

もっと原始的なもの。


失うことへの、拒絶。


「……戻れ」


声が、世界に響いた。


止まっているはずの空気が、軋む。


命令じゃない。

願いでもない。


ただの、事実の提示だ。


――お前は、ここにいる。


時間が、悲鳴を上げる。


無理だと。

在り得ないと。


それでも、俺は、押し返した。


王ではなかった。

王太子でもなかった。


だが。


今、この瞬間だけは。


世界に逆らう資格が、

俺にはある。


咆哮が、喉を裂いた。


音にならない叫び。

魔力が、空間を殴る。


蒸発したはずの戦場の残滓が、

粉塵のように舞い上がり、

そして――


落ちた。


音が、戻る。


風が、流れ出す。


時間が、再び、動き始める。


同時に。


――胸の奥が、痙攣した。


違う。


俺じゃない。


彼女だ。


ほんの、ほんの微かな。


だが、確かな。


心音。


遠くで、水の中から聞こえるような音。

不規則で、頼りなくて。


それでも。


確かに、戻ってきてしまった。


暗闇。


意識が、浮上しかけて、また沈む。


重い。


身体が、鉛みたいだ。


息を吸おうとして、

胸が、痛い。


何かが、喉に詰まっている。


――うるさい。


声が、聞こえる。


近くて、必死で、壊れそうな声。


名前を、呼んでいる。


……誰?


考えようとして、思考が滑る。


でも。


その声だけは、分かる。


いつも、

近くにいた声。


安心する声。


「……う……」


音にならない音が、喉から漏れた。


次の瞬間。


世界が、爆発した。


抱き締められる。


強く。

苦しいほど。


「……メイ……」


震えている。


誰かが、

泣いている。


ああ。


そうか。


私、まだ……。


生きてる?


そう思った瞬間。


意識が、また、途切れた。


だが。


完全には、落ちなかった。


遠くで。


咆哮の余韻が、まだ残っている。


世界を殴り、

時間を捻じ曲げ、

命を引き戻した――


王の声。


そして、その中心にいるのは。


ああ。


――ルイだ。


理解するには、まだ遠い。

でも。


その腕が、

二度と離さないと、

そう誓っていることだけは。


はっきりと、分かった。


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