即死から守れなかった君
――鬼神。
いつから、そう呼ばれるようになったのか。
気づいた時には、もう定着していた。
剣を振るえば、敵が崩れる。
魔術を斬れば、術者が消える。
俺は、強かった。
誰よりも前に立ち、誰よりも多く斬った。
アグナスの地で、
俺は確かに“役に立っていた”。
……それなのに。
視界の先で、
メイが倒れた。
理解が、追いつかなかった。
血が、飛んだ。
音が、消えた。
――いや。
消えたのは、音じゃない。
世界そのものが、
一瞬で、遠のいた。
「……は?」
喉から出た声が、
自分のものに聞こえなかった。
即死。
それが、頭に浮かんだ瞬間、
全身が、冷え切った。
俺は、間に合わなかった。
鬼神だとか、
英雄だとか、
そんなものは――
何の意味もなかった。
足が、勝手に動く。
駆け寄ろうとして――
途中で、止まった。
いや。
止められた。
空気が、重い。
足が、床に縫い付けられたように動かない。
視界の端で。
――ルイが、跪いていた。
違う。
あれは、跪きじゃない。
世界に、押し付けられている。
そんな姿勢だった。
「……ルイ……?」
声が、震えた。
次の瞬間。
世界が、完全に――
止まった。
音が、消えた。
風が、凍った。
血の滴すら、宙に留まったまま。
俺の視界の中心には、
ただ一人。
メイだけが、いた。
「……ルイ!」
叫んだ。
喉が、裂けるほど。
「……ルイ!!」
返事は、ない。
いや。
聞こえていない。
あいつは、
もう――この世界にいない。
時間の外側に、
踏み出してしまっている。
俺は、初めて理解した。
――ああ。
これが、
王になる器の狂気か。
「御守りだ!」
叫んだ。
自分でも、何を言っているのか分からなかった。
「だから……!」
声が、掠れる。
「死が……固まっちゃう前に……!!」
必死だった。
鬼神だとか、
戦場だとか、
どうでもよかった。
ただ。
目の前で、失いたくなかった。
だが。
声は、遠い。
届いているのか。
伝わっているのか。
分からない。
世界が、
音を失っていた。
ルイは、動かない。
いや――違う。
動きすぎている。
制御を、完全に失った魔力が、
空間を歪めている。
見ているだけで、分かる。
あいつは、
“止めている”。
回復しているんじゃない。
癒しているんじゃない。
時間を、殴り止めている。
そんなこと。
出来るはずがない。
……なのに。
目の前で、
それが起きている。
俺は、
剣を落とした。
ガラン、と音がした……はずだった。
だが、その音すら、聞こえない。
涙が、出た。
自覚した時には、
頬を伝っていた。
――俺は、守れなかった。
守れる位置に、
確かに、いたのに。
間に合わなかった。
鬼神だの、
英雄だの。
全部、嘘だ。
「……メイ……」
声にならない声で、名前を呼ぶ。
その瞬間。
ルイの背中が、
わずかに、揺れた。
……聞こえたのか?
分からない。
だが。
次の瞬間。
世界が、軋んだ。
蒸発。
それ以外に、
言葉が見つからない。
敵が、消えた。
跡形もなく。
音もなく。
存在していた事実ごと。
俺は、立ち尽くした。
理解できなかった。
ただ、分かったのは――
ここから先は、俺の知っている戦場じゃなかった。
レオ




