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元奴隷から愛される異世界生活。  作者: ChaCha


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自分が出来る日常

石造りの作業室は、朝から薬草の香りで満ちている。

窓から差し込む光が、磨き上げた机の上で反射して、ガラス瓶の縁を淡く光らせた。


私は今日も、ポーションを作っている。


ただそれだけ。

それだけのことなのに、手は止まらない。


薬草を刻み、魔力を流し、温度を保ち、沈殿を待つ。

失敗は許されない。

だから、呼吸は一定。

思考は静かに。


――何本目だろう。


カウツ街にいた頃より、ずっと集中できている。

雑音がない。

余計な心配も、追手もない。


「……よし」


一つ、完成。

淡い青を帯びた液体が、瓶の中でゆっくりと落ち着く。


私はラベルに、番号を書き足した。


これは、回復ポーションじゃない。

魔力を「戻す」ものでもない。


――器を、広げる。


本来持っている限界値、その“天井”そのものを押し上げる。

錬金術師の常識では、触れてはいけない領域。

神の領域に、限りなく近い。


でも。


「……できちゃったんだもの」


ぽつりと、独り言が零れる。


研究のきっかけは単純だった。

ルイの身体を、根本から治したかっただけ。


外傷だけじゃない。

衰えた内臓。

歪んだ魔力回路。

削られ続けてきた“器”。


回復させるだけじゃ、足りなかった。


――護りたかった。


あの子は、強い。

でも、それ以上に、危なっかしい。


だから、底上げした。

限界まで、何度も。

慎重に。

壊れないように。


治験。

臨床観察。

どんな言葉を使っても、やっていることは同じだ。


「……ルイだけのため」


誰に言うでもなく、そう呟く。


彼は、もう私の庇護下にはいない。

それは、わかっている。


身分も、立場も、役割も。

全部、変わった。


だから――

もう、以前みたいに。


「はい、あーん」

なんて、できない。


「……癒しの餌付け、できないのね」


ふっと、力の抜けた笑いが漏れた。


寂しいとか。

不安とか。


そういう言葉は、まだ浮かばない。

ただ、少しだけ。


作業台の向こう側が、広く感じる。


私は次の薬草を手に取った。

乾燥させた葉を、指で砕く。

ぱり、と小さな音。


集中。

今は、それだけでいい。


このポーションが広まれば。

名前が残れば。


きっと、どこかで――

両親の耳にも届く。


「……生きてるって、伝わるかな」


胸の奥が、きゅっと縮んだ。


顔が、浮かぶ。

あの時の、抱きしめてくれた腕。

最後に聞いた声。


――会いたい。


今すぐじゃなくていい。

でも。


この名前が。

この成果が。


私が、ちゃんと生きている証になるなら。


私は、作る。

ひたすら、作る。


ガラス瓶が増えていく。

作業室の棚が、少しずつ埋まっていく。


外では、人の気配がする。

足音。

声。


でも、今は関係ない。


私は何も知らない。

何も、気づいていない。


ただ、自分の出来ることをしているだけ。


――それだけの日常。


その日常が、

どこに繋がっているのかなんて。


考えもしないまま。



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