合流
街道は、もう完全に“人の道”だった。
踏み固められた地面。
馬車の轍。
行き交う足音。
森の湿った匂いが薄れ、
代わりに、埃と金属と人の気配が混じる。
――帰ってきた。
そう思った瞬間、
全身の緊張が、どっと抜けた。
三人で、並んで歩く。
不思議な光景だ。
ほんの少し前まで、
世界は私とルイの二人だけだったのに。
レオは、前を歩いている。
警戒も、気負いもなく。
まるで最初から、こうなると知っていたみたいに。
「いやぁ、まさかだな」
振り返りもせず、軽い声。
「街道から、違和感を感じただけだぞ。
魔物の気配が、妙に乱れててな」
偶然。
本当に、偶然。
「まさか、
お前がいるとは思わなかった」
私は、笑う。
「私も」
レオは、ちらりとこちらを見る。
そして、にやりと口角を上げた。
「……やっぱり」
一拍。
「コイツは、
俺がいないとダメだな」
「え?」
意味が分からず、聞き返す。
「穴に落ちるわ、
魔物に囲まれるわ」
肩をすくめる。
「ちゃんと待ってたのは、偉いけどな」
「……?」
レオは、歩調を落とした。
「ルクス王国まで、
一緒に行くんだろ?」
一瞬、頭が真っ白になる。
「……兄貴ぃ!!」
思わず、声が裏返った。
「ははは」
あっけらかんとした笑い。
胸が、軽くなる。
重しが、外れたみたいに。
街に入ると、
人の声が一気に増えた。
露店。
馬。
冒険者。
ギルドの建物が見えたところで、
レオが足を止める。
「じゃあ、俺は受付な」
「うん!」
「待ってろよ?」
「うん!」
言葉に、迷いはない。
レオは、そのままギルドへ消えた。
私とルイは、
併設された食堂へ入る。
冷たい飲み物。
喉を潤す。
……ああ。
生き返る。
「待つって言ったけどさ」
思わず、愚痴が出る。
「早く帰って、
シャワーしたい……」
身体が、土と汗で重い。
ふと見ると。
ルイが、何か言いたそうにしている。
視線が、落ち着かない。
「どうしたの?」
声をかける。
「……あの方と……」
言葉が、途中で切れる。
続きは、聞こえなかった。
なぜなら。
「待たせたな」
背後から、声。
振り返ると、
レオが立っていた。
「はやくシャワーしたい」
正直な願望を、そのまま言う。
「じゃあ、宿に帰るか」
「うん」
三人で、歩き出す。
夕暮れの街。
人の影が、長く伸びる。
その時。
ルイが、
静かに拳を握ったのが、視界の端に入った。
気づいたけれど、
意味までは分からない。
二人と、一人。
並んでいるのに、
どこか、距離がある。
宿の前で、
レオが当然のように言った。
「俺のベッド、あるよな?」
「ない!!!」
即答。
「えっ」
「ないから!!」
だって。
ルイが、使ってる。
一瞬の沈黙。
「……俺の帰る場所がっ!」
大袈裟に嘆くレオ。
私は、思わず笑った。
「……知らない!」
その横で。
ルイは、何も言わなかった。
ただ、
握った拳を、
ゆっくりと解いた。
――三人旅は、始まった。




