終わりの見えない暗闇
朝なのか、夜なのか。
時間の感覚は、とっくに溶けていた。
穴の底は、相変わらず暗い。
湿った土の匂い。
冷たい空気。
眠って、目が覚めて。
それでも、景色は何一つ変わらない。
ただ一つ違うのは。
――私は、生きている。
そして、独りじゃない。
「……さて」
声に出すと、少しだけ現実味が増す。
「横向きで上に上がれる道、
あるはずなのよね」
希望というより、
“可能性”の話だ。
このまま、
救助を待つという選択肢もある。
でも。
ここが街道から外れた森の奥だという事実。
魔物の巣穴が近いという状況。
待つ、というのは。
祈る、に等しい。
私は、横穴の前にしゃがみ込んだ。
暗い。
奥が、見えない。
「……入れる、広さではある」
腹ばい。
横向き。
ぎりぎり。
詰まるほどではない。
だが、余裕もない。
壁に手を当てる。
ざらつく土。
ところどころ、根。
――空気。
わずかだが、
流れを感じる。
完全な死路では、ない。
「音は……」
耳を澄ます。
水音は、ない。
風も、弱い。
外に繋がっているかどうか。
正直、賭けだ。
横穴を見る。
ルイを見る。
彼は、すでに状況を理解していた。
「……行くしか、ありませんね」
静かな声。
迷いがない。
「戻れるように、目印を」
私は、布を裂く。
結んで、壁の突起に引っ掛ける。
一つ。
また一つ。
進んだ距離を、
戻れる距離にするために。
「上向き……かも」
完全ではないが。
ほんのわずかに、角度がある。
それだけで、
胸の奥に小さな火が灯る。
「……行こう」
頷き合う。
狭い。
暗い。
音が、吸われる。
腹ばいになり、
横向きで、這う。
土が、服に入り込む。
肘が、擦れる。
呼吸を、乱さない。
パニック厳禁。
ここで暴れたら、詰む。
壁に手を触れ続ける。
方向を、覚える。
背後の光が、
少しずつ、遠くなる。
――暗闇。
終わりが、見えない。
「……大丈夫?」
小さく、声をかける。
「ええ。
まだ、進めます」
ルイの声は、落ち着いている。
それが、ありがたい。
時間が、分からなくなる。
どれくらい、進んだ?
数分?
それとも、もっと?
腕が、重い。
首が、痛い。
それでも。
「……少し、広くなってきた」
前方に、
ほんのわずかな空間。
腹ばいから、
四つん這いに移れる。
そして。
「……出た」
少し、開けた場所。
洞のような空間。
天井は低いが、
横穴よりは、ずっと楽だ。
私は、魔具を取り出す。
起動。
淡い光が、
ふわりと広がる。
視界が、戻る。
そして。
「……いるよねぇ」
思わず、呟いた。
「……ですよねぇ」
そこには。
――魔物。
複数。
しかも、数が多い。
巣だ。
気配に、気づかれた瞬間。
ルイが、駆けた。
一切の無駄がない。
奇襲。
詠唱。
展開。
一気に、間合いを潰す。
「わぁ!
いっぱいだー!」
思わず、声が出る。
……が。
ここから先は、
グロ映像のため。
花畑に、
差し替えてお送りします。
剣が、舞う。
魔術が、走る。
私は、
後方から即座に支援。
回復。
強化。
巡回補助。
息を合わせる。
恐怖は、ある。
でも。
今は。
「詰んでるけど、
……まだ、終わってない!」
花畑(大量)を背景に。
私たちは、
前へ進む。
――横向きの道は、
確かに、あった。
終わりは、
まだ、見えない。
けれど。
生きている。
進めている。
ふたりで。
それだけで、
今は、十分だった。




