魔物討伐クエスト
日程は、行き帰りを含めて五日間。
ギルドで説明を受けた時点では、正直、楽勝だと思っていた。
街道沿い。
討伐対象は中型魔物。
複数だが群れではない。
――行きは、ほぼピクニック気分。
空は高くて。
風は穏やか。
荷は軽い。
「順調ね」
私がそう言うと、
ルイは静かに頷いた。
街道は、安全だ。
整備されている。
人の手が入っている。
でも。
街道を、逸れた瞬間。
空気が、変わる。
音が、減る。
草が、深くなる。
足元が、不確かになる。
二日目。
さっそく。
「……詰んだ」
口から、自然に出た。
今、私は。
いや、私たちは。
――落とし穴の底にいる。
暗い。
土の匂い。
湿った空気。
幸いだったのは。
槍も、刃も、毒もない。
ただの、
シンプルな落とし穴。
「……大丈夫ですか」
すぐ隣から、声。
「うん。
ちょっとびっくりしただけ」
ルイの咄嗟の判断は、正しかった。
落ちる瞬間。
私は、強く引き寄せられた。
抱き締められて。
護られる形で。
背中から、落ちたのは。
――彼の方。
心臓が、どくっと鳴る。
「ごめん、重くなかった?」
そう言うと、
ルイは首を振った。
「守れました」
……即答。
その言葉に、
一瞬、思考が止まる。
落下の衝撃で。
足首を、少し挫いた。
肘も、擦りむいた。
でも。
ポーションがある。
瓶を開けて。
流し込む。
熱。
再生。
痛みが、引く。
「はい、次」
ルイにも渡す。
彼は、迷わず飲む。
戦闘の時も、そうだった。
魔物が、現れた瞬間。
ルイは、前に出た。
詠唱。
魔術陣。
判断が、早い。
一撃。
二撃。
華麗。
無駄がない。
私は、後ろから。
即座に、補助。
回復。
巡回強化。
疲労軽減。
――完璧な連携。
そして今。
戦闘後。
落とし穴の底。
静かだ。
「……で」
私は、穴の壁を見上げた。
かなり、深い。
「この深さ、
どうするかだよね」
壁は、脆そう。
でも、崩れやすい。
登攀?
補助魔術?
魔具?
選択肢は、ある。
……が。
ルイは、すでに周囲を確認していた。
足場。
壁の質。
上の光。
考えている。
私は、それを見て。
なぜか、少しだけ安心した。
「ルイ」
名前を呼ぶ。
「大丈夫。
何とかなります」
落ち着いた声。
……ああ。
まただ。
詰んだ、と思った瞬間。
いつも。
私は、
ひとりじゃない。
この穴が、
ただの地形でしかないことを。
彼は、もう。
理解している。
さて。
次は、
どうやって出る?




