弟子が、私に並んだ
「わっ、危ない!」
反射的に声を上げた、その瞬間。
ぱち、と火花が散る。
次の刹那。
ルイが一歩踏み込み、手首を返した。
炎が、嘘みたいに鎮まる。
……早い。
「大丈夫ですか」
落ちてきた声は、低くて落ち着いていた。
心配が、滲んでいる。
「あ、ルイ。
ありがとう」
軽く返す。
深く考えない。
今日は、やることが多い。
欲しい素材を手に入れる。
それから、ルイの戦闘訓練に備える。
そのための準備。
魔物撃退用の魔具制作。
ポーション各種の補充。
机の上には、器具と瓶。
床には、描きかけの魔術陣。
私は、どちらかと言えば。
治癒。
再生。
整えること。
そして、戦闘を避ける錬金術が得意だ。
殺さずに済む方法。
壊さずに終わる手段。
それを考える方が、性に合っている。
作れるけれど。
……殺傷能力の高い魔具は、どうしても苦手意識が先に出る。
その点。
ルイは、違った。
描いた魔術陣。
線の引き方。
力点の置き方。
……洗練されている。
まるで。
何度も、死線を潜り抜けてきたみたいな。
相手の命を狩る側としての、魔術。
迷いがない。
「……これ、すごいわね」
思わず、口に出た。
戦闘魔術。
学べるのは……?
そんなことを考えていると。
ルイが、少し距離を詰めた。
「手を、見せてください」
静かな声。
でも、強い。
「あ」
言われて初めて気づく。
指先が、赤い。
熱。
小さな火傷。
……いつの間に。
「あ、ほんとだ」
大したことない。
そう思っている間に。
「この魔術陣は、
こうした方が安定するはずです」
ルイは、床に膝をついた。
私の描いた陣を、指でなぞる。
少し、角度を変える。
線を、一本足す。
……あ。
「安定した」
力の流れが、変わった。
暴れが、収まる。
「……ルイが、私を越えた!」
思わず、声が弾む。
「弟子は、卒業だ!」
ルイは、目を丸くした。
それから。
嬉しそうに、笑った。
その表情が、あまりに素直で。
胸が、少し温かくなる。
「そうかぁ」
私は、無意識に続ける。
「ルイが独り立ちすることも、
考えなきゃダメだよねー」
何気ない。
本当に、何気ないひと言。
――ピシッ。
空気が、鳴った。
温度が、下がる。
背中に、ひやりとしたものが走る。
……?
でも。
私は、気づかない。
すでに、次の工程に意識が向いている。
作成に、集中。
背後で。
ルイが、静かに立ち上がる気配。
「ご主人様の、昼食を作ります」
声は、いつも通り。
落ち着いている。
「ルイが作るご飯、美味しいよね~。
助かる!」
明るく返す。
「あ、香草入りのソーセージ焼いてね」
……忘れない。
ルイの好物も。
「はい」
短い返事。
昼食のことを考えて、鼻歌が出る。
作業は、順調。
私は、知らない。
その言葉が。
“独り立ち”という音が。
彼の中で、
どんな意味に変換されたのかを。
弟子が、並んだ。
……その瞬間。
彼の中では、
何かが、静かに形を変えていた。




