街と、視線。
カウツ街は、今日も賑やかだった。
石畳に、靴音が重なる。
露店の呼び声。
焼いた肉の匂い。
生きている街の匂い。
その中心を、メイは歩く。
背筋は自然に伸びて。
歩幅は一定。
所作に、無駄がない。
――目を引く。
高位貴族として育った気配は、隠しきれない。
意識していなくても、溢れる。
良い女だな。
遠目でも、分かる。
近づき難い。
けれど、だからこそ。
高嶺の花。
挑む男は、いる。
軽口。
遠慮のない笑み。
「お嬢さん、一杯どう?」
メイは、微笑む。
一歩、距離を取る。
「結構です」
それだけ。
言葉は柔らかい。
拒絶は、はっきり。
男は肩をすくめて、引く。
――軽く、あしらわれる。
それでも。
視線は、消えない。
すれ違いざまに、
さりげなく距離を詰める者。
手が、伸びそうになる者。
……嫌だ。
胸の奥が、ひりつく。
そのたびに。
俺は、自然に前に出る。
護衛の位置。
一歩、半歩。
影に、重なる。
メイは、気づかない。
気にしない。
それが、余計に。
素材屋。
食糧店。
薬草商。
メイは、必要なものを選ぶ。
俺の身体。
俺の回復。
俺の鍛錬。
自分のものより、
俺のための買い物が多い。
「これと、これ。
あと、干し肉も」
当然みたいに言う。
……大切に、されている。
会計。
若い店員が、笑顔で金を受け取る。
「ありがとうございます」
お釣りを渡す時。
両手で、包むように。
――触れる。
ガッ。
俺の手が、止めていた。
空気が、一瞬、凍る。
店員が、目を見開く。
メイが、振り向く。
「……え?」
俺は、すぐに声を出した。
「あ。
これからは、俺が支払いをします」
自然に。
穏やかに。
「従者なので」
……嘘は、言っていない。
店員は、慌てて頭を下げる。
金を、俺に渡す。
「失礼しました」
メイは、少し驚いた顔。
でも、すぐに納得したように頷く。
「そうね。
任せようかしら」
当たり前。
そういう口調。
後で、生活費を渡そう。
きっと、そう考えている。
……それでいい。
金を持つ。
支払う。
彼女の前に、立つ。
役割が、増える。
胸の奥が、温かい。
誰にも、触れさせない。
誰にも、近づかせない。
まだ、行動には出ない。
刃も、魔術も、向けない。
でも。
内側で、確かに育っている。
独占欲。
街の視線。
男の視線。
全部、邪魔だ。
それでも。
俺は、黙って隣を歩く。
今は、まだ。
影で、十分だ。
メイが、俺を必要としている限り。




