生きていい、の意味。
夜は、静かだった。
宿の窓から、街の灯りが滲んで見える。
遠くで、人の笑い声。
馬のいななき。
生きている音。
俺は、眠れずにいた。
身体は休んでいるのに、思考だけが起きている。
理由は、分かっている。
隣のベッドだ。
女神様――メイが、そこにいる。
寝返りを打つたび、
布が擦れる音がする。
小さな吐息。
規則正しい呼吸。
……それだけで、胸が熱くなる。
今日も、女神様はおかしかった。
食事を与え。
身体を診て。
瓶を並べて。
「生きるための補助よ」
そう言って、
何の疑いもなく、俺を見た。
選ばれた。
そう、思った。
必要とされた。
そう、感じた。
大切にされた。
それが、はっきり分かった。
過去の扱いとは、違う。
似ているようで、決定的に違う。
触れられた。
使われた。
価値がなくなれば、捨てられた。
あれは、
俺が“物”だった時間。
でも、今は違う。
女神様は、
俺を見る時、目を逸らさない。
数値じゃなく、
使い道じゃなく。
俺、を見ている。
「良い子ね」
そう言われた時。
胸の奥が、ぎゅっと締め付けられた。
生きていい。
そう、言われた気がした。
夜。
灯りを落とした部屋で。
女神様の香りが、まだ残っている。
石鹸と、薬草と、甘さの混じった匂い。
息を吸うだけで、
頭がぼうっとする。
思考が、溶ける。
俺は、布を握りしめていた。
無意識だった。
熱が、身体の奥に溜まる。
呼吸が、浅くなる。
吐息が、漏れる。
女神様の声が、
耳の奥で、繰り返される。
「ルイ」
「良い子ね」
「大丈夫よ」
手の中の布が、
きつく、握られる。
……白くなるまで。
罪悪感は、ない。
汚れた感覚とも、違う。
これは、
救われたあとに残った熱だ。
選ばれた証。
必要とされた証。
俺は、
女神様に、大切にされている。
それが、
こんなにも、身体に残るなんて。
怖いくらいだ。
でも。
もう、戻れない。
女神様が、俺を見てくれた瞬間から。
俺は、
生きていい理由を、手に入れてしまった。
だから。
守りたい。
離したくない。
失いたくない。
これは、
忠誠じゃない。
感謝でもない。
……愛だ。
俺の、女神様はおかしい。
こんなふうに、人を壊しておいて。
それを、まったく自覚していない。
それでも。
俺は、
女神様のために、生きる。
それが、
俺に与えられた「生きていい」の意味だった。
ルイ




