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元奴隷から愛される異世界生活。  作者: ChaCha


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BGMと婚約破棄

広間の空気が、ぴしりと凍りついた。

白い大理石の床は磨き上げられ、

天井の装飾魔法陣は卒業式仕様のまま淡く光っている。

本来なら、祝福と拍手で満ちているはずの場所だ。


なのに今、響いているのは――

学生たちが一斉に息を呑んだ、その音だけ。


ざわめきは、まだ起きていない。

誰もが、次に起きることを理解できず、音を失っていた。


中央に立つのは、第二王子。

背筋を正し、少しだけ顎を上げたその姿は、式典用の礼装に似合いすぎている。

そしてその隣。

自然すぎる距離で寄り添う、茶髪の令嬢。


微笑みは柔らかく、視線は潤んでいる。

守られる側の立ち位置を、完璧に理解している立ち方だった。


「貴女との婚約を、ここに正式に破棄する」


言葉が落ちた瞬間、

ようやく、ざわりと音が広がった。


……え?


思考が、半拍遅れる。

破棄?

今?

この流れで?


理解しようとした、その瞬間だった。


頭の奥で、ありえない音が鳴り始める。


軽やかで、きらきらしていて、

聞き覚えがありすぎる旋律。


――うそでしょ。


脳内で再生されるのは、

前世で何度も聞いた、あのBGM。


『咲き乱れるマジカル学園』

終盤。

断罪イベント。


映像みたいに、記憶が蘇る。

選択肢、攻略状況、イベント分岐。

そして――

ヒロインが、攻略対象の腕に寄り添う、あの構図。


「……は?」


声にならない声が、口から零れた。


目の前にある光景が、

記憶と、ぴたりと重なる。


第二王子の腕に、自分の胸を押し当てるようにして、

潤んだ瞳で見上げる、茶髪の少女。


「また……殺されそうで、怖い……」


か細く、震える声。

周囲の同情を一瞬で集める、完璧な台詞。


……え?

この子……。


胸の奥が、ひやりと冷える。


――ヒロイン?


思考が追いつかない。

だって、知ってる。

この世界の、シナリオを。


彼はもう攻略済み。

彼女は、正ヒロイン。

ここは、ゲーム終盤の断罪イベント。


腕が、ぎゅっと回された。

彼女を抱き寄せる動きは迷いがなく、

庇護する側の意思を、これでもかと見せつける。


「彼女の身に危険を及ぼす可能性がある以上、

 学園に置いておくわけにはいかない」


視線が、こちらに向く。

冷たくもなく、怒りもない。

ただ、決定事項を告げる目。


「――メイ・シルヴァを、国外追放とする」


……。


…………は?


一瞬、言葉の意味が分からなかった。


追放?

国外?

え、国外?


脳内で、さっきから鳴り続けているBGMだけが、

やけに楽しげだ。


違う。

違う違う違う。


このイベント、

本来は追放なんて――ない。


婚約破棄。

名誉失墜。

悪役令嬢としての断罪。


そこまでだ。


国外追放?

そんなの、聞いてない。


予定にない。

シナリオにない。

救済ルートも、選択肢も、表示されない。


喉の奥から、間の抜けた声が出る。


……は?


視界の端で、学生たちがひそひそと囁き始めている。

視線が突き刺さる。

祝福の余韻が残る広間で、

一人だけ、完全に場違いな立場に立たされている。


破棄!?

キャパい、無理。

詰んだ。


思考が、そこで止まった。


意味が、分からない。

どうしてこうなったのかも、

これからどうなるのかも。


分かるのはひとつだけ。


――絶望、来た。


はぁあー??????


心の中で、盛大に叫びながら、

私は、笑うことすら忘れて立ち尽くしていた。




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