三本の瓶
ギルドの受付で、少し揉めた。
いや、正確には、私が首を傾げた。
「……え?
この子、奴隷ですよね?」
受付の女性が、困ったように視線を泳がせる。
周囲の空気が、妙に生温い。
「あの、その……肉壁役というか……
護衛枠、というか……」
言葉を濁される。
要するに。
奴隷は冒険者登録しなくてもいい。
空気でそう処理されそうになった。
意味が、分からない。
「登録にお金、要りますよね?」
念を押す。
すると、相手はさらに戸惑った。
「……ええ、まあ……
でも……」
でも、じゃない。
「します。
登録」
きっぱり言うと、
今度は受付が、私を見る。
「……本当に?」
本当にって、何。
採取クエストの納品金を置く。
足りない分は、追い金。
「これで足りますよね」
空気が、変わった。
渋々、という表情で登録が進む。
……おかしな受付だ。
ルイは、隣で黙って立っていた。
視線は床。
背中が、少し丸い。
「終わったわよ」
声をかけると、
はっとして、こちらを見る。
「……はい」
それだけで、
胸の奥が少し緩んだ。
ギルドを出たあと、
私は素材買取の窓口へ向かう。
心許なくなってきたポーション素材。
特に、回復系。
「これと、これ。
あと、これも」
素材が積まれていく。
金貨が減っていく。
……でも、いい。
ルイを見る。
「ね。
この子、戦えるんだって」
口にした瞬間、
胸の奥で、ちょっとしたガッツポーズ。
超ラッキー。
護衛がいる。
しかも、戦闘魔術持ち。
……生存率、爆上がり。
宿に戻る。
ここが、私のぷち工房。
机を寄せて。
器具を並べて。
瓶を洗って。
ルイは、言われる前に動く。
火加減。
水の量。
素材の刻み。
……あれ。
「補助、上手いわね」
言うと、
少しだけ、目を見開いた。
「……ありがとうございます」
これはもう、助手だ。
ついでに。
「弟子扱いでいい?」
そう言うと、
ルイは一瞬、固まってから、
大きく頷いた。
のみこみが、早い。
難しい説明も、すぐ理解する。
地頭が、いい。
……育て甲斐がある。
三本の瓶を並べる。
いつもの、構成。
一本目。
身体の補助。
「これは、回復と疲労軽減。
無理が溜まる前に飲むの」
二本目。
心の補助。
「これは、不安と緊張を和らげる。
夜用ね」
三本目。
関係の補助。
「これは……
まあ、巡りを良くする感じ。
時間とか、距離とか」
強制は、しない。
自然に、少しだけ楽になる。
それだけ。
ルイは、三本を見つめていた。
まるで、宝物みたいに。
「全部……
俺の、ためですか」
小さな声。
「?
そうよ」
当たり前に答える。
「生きるための補助だもの」
それ以上でも、
それ以下でもない。
ルイは、何も言わなかった。
ただ、瓶を胸に抱いた。
……あれ?
でも、深く考えない。
ポーション作る。
ギルドへ納品。
素材を買う。
また、作る。
私のポーションは、品質がいい。
評判も、いい。
気が付けば、
この街で一ヶ月。
追放されて、三ヶ月。
困ってない。
生きてる。
安全。
だから。
「ルクス王国行きは、
もう少し先ね」
そう伝えると、
ルイは黙って頷いた。
その日から、
彼は身体を鍛え始めた。
……律儀。
そろそろ、お昼時。
「育ち盛りは、
しっかり食べなきゃ」
鍋を火にかける。
今日も、
生存補助は万全。
……の、つもりだった。
その三本が、
どう受け取られているかなんて。
この時の私は、
まだ、知らなかった。




