夜の静けさと、監視。
採取クエストは、無事に終わった。
メイは成果物を丁寧に確認して、静かに頷いた。
「じゃあ、ギルドに報告しに行こう」
街へ向かう道は、人が多い。
それだけで、胸の奥がざわついた。
囲まれる記憶が、勝手に浮かぶ。
途中、露店が並ぶ通りで、メイは足を止めた。
俺の足元を見て、少し眉を下げる。
「ルイ、これ」
差し出されたのは、靴下だった。
次に、靴。
「裸足は危ないもの。
今日で卒業ね」
言葉が、出なかった。
布が足に触れる。
革の感触。
地面の冷たさが、遠のく。
俺は、人として扱われている。
そう、理解してしまった。
さらに、メイは小さな袋を差し出した。
「これも」
ベルトポーチだった。
中には、回復ポーション。
魔物避け。
そして。
「お小遣い」
一瞬、意味が分からなかった。
「欲しいものがあれば、自分で買うこと」
命令でも、管理でもない。
“自分で”。
女神様は、今日もおかしい。
「マジックバッグ仕様じゃないから、
あとで付与魔術かけてあげるね」
当たり前のように言う。
優しさが、理解を超えてくる。
ギルドに入った瞬間、身体が強張った。
人の視線。
鎧。
武器。
肉壁にされた記憶が、脳裏に蘇る。
息が、浅くなる。
その横で、メイは落ち着いていた。
依頼達成の報告。
受付に金が渡される。
そして、何気ない声で言った。
「この子も冒険者デビューするので、
登録をお願いします」
……え。
俺に?
受付が、こちらを見る。
質問が、飛んでくる。
何を聞かれたか、よく覚えていない。
メイが金を差し出す。
それだけで、話は終わった。
ギルドカードが、渡された。
俺の名前で。
「得意な武器やスキルはある?」
ある。
……あった、が正しい。
封じられていた。
使えなかった。
でも今は、何も命じられていない。
俺は、自分で答えた。
「……戦闘魔術が、できます。
剣も」
メイは目を見開いた。
そして、すぐに笑った。
「そう!
ルイは戦える子だったのね!」
嬉しそうな声だった。
「護衛、欲しかったの!
嬉しい」
俺を見て、笑っている。
胸の奥が、熱くなった。
この人には、俺しかいない。
そう、思ってしまった。
夜。
宿の部屋。
明かりを落とすと、メイはすぐに眠った。
規則正しい、寝息。
俺は、それを確認してしまう。
一度。
二度。
起きているかもしれない。
何かあったかもしれない。
怖い。
目を閉じても、耳が、意識が、彼女に向く。
これは、守る、だろうか。
それとも、見張っているだけか。
区別が、つかない。
それでも。
この静けさを、壊したくない。
だから俺は、眠らない。
女神様の寝息が続く限り。
ここに、立っている。




