溺愛される詰んだ元悪役令嬢
最終話
私は、はっきりと理解している。
――愛されすぎている。
そして、そのせいで。
胃が痛い。
「……うぅ」
朝から胃を押さえ、私は自室で唸っていた。
原因は分かっている。
祝福。
感謝。
信仰。
溺愛。
全部、私に向いている。
「よし……これはもう……」
私は机の上に置いてあった自作ポーションを手に取った。
胃を労わるための、いつものやつ。
「えいっ」
一気飲み。
……効いた気がする。
多分。
鏡の前に立つ。
「……よし」
深呼吸。
…………。
……キラキラが、おさまっ……
らなーーーーい!!!
「……クッ、なぜ!!!」
思わず声が出た。
肌が淡く光る。
髪がきらり。
睫毛まで主張してくる。
(違う! 今日は控えめに生きたいの!!)
鏡越しに、後ろを見る。
そこには、腕を組んだレオが立っていた。
……肩が、震えている。
「……あーにーきー!!!」
抗議すると、レオは咳払いをしてから、にやっと笑う。
「いや、相変わらず可愛いなーと思ってな」
「それが困るって言ってるの!!」
「ははは」
笑ってる場合じゃない。
「……癒しがいる!!」
そう言った、その瞬間。
「はい」
完璧なタイミングで、扉が開いた。
カゴを持って現れたのは、ルイ。
……早すぎない?
「……もしや……監視されてるのでは!?」
「偶然です」
即答。
でも目が笑っている。
私はカゴからクッキーを一枚摘む。
「……はい。あーん」
差し出すと、ルイは自然に口を開けて、ぱくり。
指先に、唇が軽く触れた。
「美味しいです」
昔から変わらない、あの穏やかな笑顔。
……胸が、きゅん。
「……っ」
(ダメ、胃に悪い……)
「俺の分はー?」
横からレオが口を挟む。
「はーい。あーん」
ぱくり。
「お! 今日のは夏仕様で塩気がある」
「ほんと?」
私も一枚、口に入れる。
……あっ、美味しい。
「好き」
言った瞬間。
「俺もだ」
重なる声。
ルイとレオが、同時に言った。
顔を見合わせて、二人とも苦笑する。
私は、思わず吹き出した。
「もう……」
城に住む人たち。
廊下を行き交う人々。
庭で笑う声。
――ここには、穏やかな日常がある。
奴隷だった過去も。
追放された記憶も。
全部、遠い。
メイ・シルヴァは、今――
王妃で。
女神扱いされて。
兄に守られ。
夫に溺愛されている。
「……愛されすぎて困っちゃうね!」
そう言って笑うと。
ルイは、静かに微笑んだ。
「困るなら、もっと守ります」
レオは肩をすくめる。
「詰みだな」
――うん。
これは、完全に。
詰み。
でも。
世界でいちばん、幸せな詰みだ。
私は、今日もキラキラしながら、生きている。




