表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
元奴隷から愛される異世界生活。  作者: ChaCha


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

157/165

女神の日常

式典から、半年。


季節はすっかり夏になっていた。


王城の回廊を歩くたび、薄衣の裾がふわりと揺れる。

素材は軽く、風をよく通す。

……通しすぎる気もするけれど、これ以上厚着をすると汗で光が増すので却下された。


増すので。


ここ重要。


「……なんで夏になると、輝きまで元気になるのかなぁ」


ぽつりと呟くと、通りすがりの侍女が一瞬、立ち止まり――

深々と頭を下げた。


「本日も、神々しゅうございます」


「やめて!? 普通でいいから!!」


声を荒げた瞬間、

淡い光がぽわっと溢れた。


……あっ。


周囲の人たちが、なぜか一斉に肩の力を抜く。


「……ああ、涼しい……」

「疲れが抜ける……」

「今日は、よく眠れそうだ……」


(ちがう! 今のは私の叫び声!!)


胃が、きゅっと鳴った。



王城は、相変わらず賑やかだった。


いや、正確に言うと――

居着いた各国の人たちで、常にざわついている。


「謁見の順番、次はこちらで……」

「いえ、こちらは“半定住組”ですので……」

「神殿関係者は、午後から別室で……」


(……神殿?)


聞かなかったことにする。


今日は、ポーション作りの日。

逃げ場は、研究棟。


そう思って、工房へ向かいながら、途中で城内庭園に出る。


日差しが強く、草木が元気だ。

元気すぎる。


歩くだけで、足元の花がしゃきっと背筋を伸ばす。


(肥沃すぎない?)


見回すと、いつの間にか畑の区画が広がっている。


「あ、女神さま!」


農夫が、手を振った。


「この前の祝福の余波で、三回収穫できました!」


「……半年で?」


「はい!」


(こわっ)



工房では、久しぶりに静かにポーションを煮る。


薬草を刻み、魔力を流す。

集中すると、光が抑えられるのが救いだ。


「……これで、普通の回復ポーション」


できあがった瓶を並べる。


ただし。


普通(※他国基準で国宝級)。


扉の外が、やけに騒がしい。


嫌な予感。



同時刻。


別棟の執務室では。


「――女神信仰が、国内で爆発しています」


報告官の声は、どこか乾いていた。


「小国にて、自然発生的な集会が増加」

「“祈りの言葉”が勝手に統一され始めています」

「神殿建立の要望、多数」


ルイは、書類から目を上げない。


「禁止は?」


「……反発が強く」


「当然だな」


次。


「商業国家より」

「祝福された土地を“物流と食糧の要”と認定」

「商人たちが、勝手に移住準備を始めています」


「止めたか?」


「いえ。止まりません」


「そうだろうな」


さらに。


「軍事国家」

「王の魔力圧を目撃した使節が帰国」

「“敵対は不可能”との結論に至ったそうです」


ルイは、そこでようやく小さく息を吐いた。


「……平和だな」


誰も突っ込まなかった。



一方、私はというと。


「メイ様! 神殿の件ですが――」


逃げた先の庭で、捕まっていた。


「国主導ではありません!」

「民衆が自主的に……!」

「祈りたい、感謝したいと……!」


「だから!!」


両手をぶんぶん振る。


「私を祀るのはやめて!?」

「像とか、壁画とか、いらないから!!」

「というか、私まだ生きてるから!!」


周囲が、しん……と静まる。


数秒後。


「……女神さまのお言葉だ」

「謙虚なお姿……」

「涙が……」


(悪化した!?)


「そこ!!」


思わず指をさす。


「祈るなら、帰ってからにして!!」

「ここ、王城だから!!」


……でも。


止まらなかった。



夕方。


ルイと合流する。


「今日も、大変そうだな」


「うん……」


肩を落とす私を見て、彼は小さく笑った。


「だが、暴走していない」


「……してない?」


「国を壊していない」

「命令もしていない」

「強制もない」


「……勝手に増えてるだけ?」


「そうだ」


それ、最近よく聞く。


「メイは、日常を生きているだけだ」


「……それで、世界が変わるの?」


「変わっている」


即答だった。


私は、空を見上げる。


夏の夕焼け。

今日も、空気がやわらかい。


「……私、普通に散歩して、ポーション作ってるだけなのに」


「それが、女神の日常だ」


(やめて、その言い方)


でも。


少しだけ、笑った。


「……詰んでないよね?」


「まだな」


「“まだ”って言わないで!」


ルイは、楽しそうだった。


今日も、世界は勝手に回る。


私は、歩く。


薄衣で、キラキラしながら。


――これが、女神の日常。


……たぶん。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ