表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
元奴隷から愛される異世界生活。  作者: ChaCha


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

154/165

国宝化する女神印

それは、帰路の途中で始まった。


各国の馬車が、それぞれの国境へ向かう最中。

王都を離れて、半日も経たない頃だった。


「……妙だな」


最初に異変を口にしたのは、北方の老王だった。


揺れる馬車の中。

いつもなら咳き込み、胸を押さえている時間帯。


――それが、ない。


「陛下……?」


側近が恐る恐る声をかける。


「……呼吸が、楽だ」


それだけではない。

背中を丸めていた老王の姿勢が、自然と伸びていた。


「……この感覚……若い頃に戻ったようだ」


側近は、震える手で小箱を見た。


王妃から託された、手土産のポーション。


「まさか……」


その場で、封を切る。


もう一口。


――確信。


「……国宝だ」


老王は、即座に断じた。


「この瓶は、我が国の国宝に指定する」



別の国では、もっと分かりやすい“事件”が起きていた。


南方の交易国家。


帰還の途中、馬車列が突然止まった。


「何事だ!」


騎士が駆け寄ると、そこには――


「子どもが……」


護衛の一人が抱きかかえているのは、衰弱した少年。

旅の途中で倒れたらしい。


医師は首を横に振る。


「持病です……このままでは……」


その時。


王女が、躊躇いながら小瓶を差し出した。


「……女神様から、頂いたものです」


半信半疑で、ほんの一滴。


次の瞬間。


少年の顔色が、みるみるうちに戻った。


「……え?」


熱が引き、呼吸が整い、目を開く。


「……お母さん?」


その場にいた全員が、言葉を失った。


王女は、ぽつりと呟いた。


「……売れないわね、これ」


売った瞬間に、国が滅ぶ。


誰もが、同じ結論に辿り着いた。



さらに別の国では。


帰国直後、王城が騒然となった。


「陛下! 農地が……!」


報告に駆けつけると、城外の畑が――


異常なほど、青々としている。


昨日まで痩せていた土地。

作物の育ちが悪かったはずの畑。


それが、一夜にして。


「……女神の祝福だ」


誰かが、呟いた。


原因は、明白だった。


帰還時、女神のポーションを

「念のため」と水に薄め、兵士たちに配っていた。


その残り水を、畑に捨てただけ。


たった、それだけ。


「……この国、今年は飢えないな」


「いや……数年分だ」


王は、即断した。


「ポーションの存在は、厳重秘匿だ」


「同時に――外交文書を準備しろ」


向かう先は、一つ。


アグナス王国。



こうして。


各国で、同時多発的に起きる“理解”。


・これは医薬ではない

・兵器でもない

・宗教的奇跡に近い


そして、最も重要な結論。


作れるのは、あの女神ただ一人。



数日後。


アグナス王国の王城には、静かな異変が起きていた。


「……謁見希望が、倍です」


「……またですか」


外交官が、乾いた笑みを浮かべる。


内容は、どれも同じ。


・感謝

・友好

・継続的交流の希望


言い換えれば。


「もう一度、女神に会わせてほしい」



一方、その頃。


「……あれ? なんか国が静かじゃない?」


私――メイは、首を傾げていた。


「みんな無事に帰れたかなぁ」


「帰れたよ」


ルイが、即答する。


「……ただし、もう戻れないけど」


「え?」


「精神的に」


意味が分からず、私は笑った。


「大げさだなぁ」


その足元で。


ポーション棚の一本が、淡く光る。


――すでに、世界は理解していた。


この瓶一本が、

国家の運命を左右するということを。


そして、自然に定義され始める。


女神のポーション=国家級秘宝。


国宝化。


指定、保管、儀礼。


勝手に。


本人の知らないところで。



「ねぇルイ」


私は、のんびりと聞いた。


「次、何か作ってほしいって言われたらどうしよう?」


ルイは、微笑んだ。


「断る必要はない」


「ただし――」


彼は、私の手を取る。


「世界は、もう理解した」


「メイの“軽い善意”が、最強だってことを」


私は、きょとんとした。


「……?」


その無自覚さこそが。


この世界で最も恐ろしく、

そして――最も尊いものだと。


誰もが、知り始めていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ