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元奴隷から愛される異世界生活。  作者: ChaCha


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詰みに詰まれる夜

扉が閉じた、その音だけで。

世界が、ここで終わった。


厚い扉。

重いカーテン。

外界を拒むように、光も音も遮断される。


「……」


言葉を失った私の背後で、空気が動いた。

それだけで分かる。


――彼の気配。


振り返るより先に、体温が重なる。

背中に、胸板。

服越しでも分かる、鍛えられた硬さ。


呼吸が、揃う。


「……逃げないな」


耳元で囁かれる声は低く、落ち着いていて。

それなのに、私の心臓だけが騒がしい。


「……逃げたら、詰む」


無意識に零れた言葉に、喉が熱くなる。


腰に回された腕が、ゆっくりと締まる。

抱き寄せる、というより、確保に近い。


力は強くない。

でも、解放されないと分かる。


それが、怖くて。

それ以上に、安心してしまう自分がいる。


「……見て」


身体を導かれ、向き合う。


近い。

視線が、逃げ場を塞ぐ。


黒い瞳。

揺れない、迷いのない視線。


私しか、映していない。


「……」


息を吸うたび、胸が上下する。

それを、じっと見られている。


恥ずかしい。

なのに、目を逸らせない。


「……綺麗だ」


低く、静かな断定。


飾り言葉じゃない。

評価でもない。


事実を告げられただけなのに、

身体が正直に反応してしまう。


淡い光が、肌の奥から滲む。

香りが、広がる。


甘やかで、柔らかく、逃げ場のない香り。


「……また、強くなったな」


そう言いながら、深く息を吸われる。


「……っ」


それだけで、膝が抜けそうになる。


額が触れ、

鼻先がかすめ、

呼吸が混ざる。


唇は、まだ触れない。


その距離が、拷問みたいに長い。


「……今から」


低く、落ちる声。


「今から、メイを俺で詰ませる」


「……っ」


言葉だけで、身体が跳ねた。


次の瞬間、視界が反転する。

シーツに背中が沈み、冷たさが伝わる。


その上から、覆いかぶさる重み。


逃げ場は、ない。

でも、押さえつけられている感覚はない。


受け止められている。


それが、分かる。


「……重い?」


「……ちょうど、いい」


正直な答えに、喉が鳴る。


首筋に、頬に、額に。

触れるだけの口付けが、ゆっくりと落ちる。


触れるたび、光が強くなる。

抑え込もうとしても、無理だ。


「……抑えなくていい」


囁かれる。


「俺の前では、全部でいい」


胸の奥が、きゅっと締まる。


シーツを、ぎゅっと掴む。

指に、力が入る。


それを見て、ルイの喉が鳴った。


「……可愛い」


その一言が、致命的だった。


「……ルイ」


名前を呼ぶ声が、震える。


「……言って」


「……なにを?」


「……分かってるくせに」


少し、意地悪に言うと。

彼は、ほんの一瞬だけ黙った。


そして。


「……愛している」


低く、逃げ場のない声。


胸が、いっぱいになる。


「……私も」


息を吸って。


「……ルイ……愛してる」


初めて、自分から言った言葉。


その瞬間。


空気が、揺れた。

光が、弾ける。


抱きしめる腕に、力が入る。

震えが、伝わる。


「……俺は、ずっと愛していた」


額が、私の肩に落ちる。


深く、息を吸われる。

私の香りを、肺いっぱいに。


「……俺の方が、深い」


耳元で、囁く。


「俺の、女神さま」


「俺だけの、メイ」


その言葉で、完全に理解した。


私は、選ばれている。

迷いなく。

逃げ場なく。


「……詰んでるから……」


小さく言うと。


「詰ませました」


悪い声。

でも、誰よりも優しい。


指が絡む。

強くないのに、解けない。


呼吸が重なり、

体温が混ざり、

時間が溶けていく。


夜は、まだ深い。


終わらない。

終わらせない。


――これは、奪う夜じゃない。

互いに、堕ちていく夜。


詰みに詰まれて。

世界でいちばん幸せだと思える夜。


互いに愛を確かめ合い、溶け合うように夜へ沈んでいった。



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