愛しているのは君だけ
――掛かった。
視界の端で、二人が同時に固まるのが分かった。
理解できていない顔。
何が起きているのか、どこで間違えたのか、まだ整理が追いついていない。
嗤いそうになるのを、喉の奥で止める。
当然だ。
お前たちは、理解する側ではない。
招待状を書いたあの日から、これは決まっていた。
メイを苦しめた者。
彼女の命を奪おうとした者。
そして、その罪を「自覚すらしていない者」。
すべてを、光の下に引きずり出すための式典だった。
カーテンが一斉に開く。
夜気と共に、各国の視線が流れ込む。
逃げ場は、もうない。
……メイ。
怯えたままの君が、視界に入る。
レオの衣を握るその指先が、小さく震えている。
違う。
君は、もう追われる側じゃない。
君の恐怖は、過去の残滓だ。
理解していないのは――君だけだ。
俺は、君の前に立つ。
背を向ける形で、全てを遮る。
「大丈夫だ」
声は低く、よく通る。
意識しなくても、場を制圧する音量。
魔力圧が、静かに広がる。
威嚇ではない。
序列の再確認だ。
「俺には、君しかいない」
その言葉で、空気が変わる。
ざわついていた他国の者たちが、はっと息を止めた。
これは私情ではない。
王の宣告だと理解したからだ。
俺は、ゆっくりと視線をずらす。
――エリック・ハーバル。
まだ、自分が“選ぶ側”だと思っている顔。
滑稽だ。
お前はもう、選ばれる土俵にすら立っていない。
「……元婚約者、だったか」
名を呼ぶ価値すら、もうない。
レオが一歩踏み出す。
次の瞬間、鈍い音。
骨が折れる音は、意外なほど乾いていた。
悲鳴は上がらない。
上げる余裕すら、与えない。
「静かにしろ」
俺の一言で、すべてが止まる。
次に、視線を移す。
――桃色。
名で認識する必要もない。
俺の中で、最初から“物体”だった。
当たり前のように、俺の腕に絡んできた。
護衛を制したら、当然のように歩みを進めた。
この場で、王妃を“交換”できると思ったのか。
理解不能、というより――
理解する気がない。
「……」
嗤う。
メイを暗殺しようとした件。
証言も、物証も、すでに揃っている。
エリックとの共謀。
王妃暗殺未遂。
罪状は、十分だ。
「君は、何も知らなくていい」
背後で、メイにだけ聞こえる声量で告げる。
「もう、怖がらなくていい」
俺は、振り返らない。
だが、確信している。
君は、そこにいる。
俺の後ろで、守られている。
「この場にいる全ての国に、宣言する」
声を、上げる。
「アグナス王国の王妃は、唯一人だ」
間髪入れずに、続ける。
「彼女に指一本触れた者は――
国として、敵と見なす」
静寂。
誰も、異を唱えない。
それが、この場の“答え”だった。
……メイ。
君はまだ、怯えているかもしれない。
だが、もう逃げなくていい。
俺は、君を選んだ。
選び続ける。
世界が敵に回っても、関係ない。
愛しているのは――君だけだ。
ルイ・アグナス




