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元奴隷から愛される異世界生活。  作者: ChaCha


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修羅場

息が、詰まりそうだった。


舞踏会は美しく、華やかで、祝福に満ちていたはずなのに。

曲が変わるたび、立場が違うたび、私は囲まれていった。


話しかけられる。

褒められる。

感謝される。

質問される。

未来を語られる。


(……ちがう、そうじゃない)


笑顔を崩さず、言葉を切らさず。

ハーバル王国で叩き込まれた王子妃教育が、皮肉なほど役に立つ。


通訳はいらない。

相手の文化も、言い回しも、暗黙の礼儀も分かる。


分かるからこそ――逃げられない。


(……息抜きがないと、詰む)


昨夜と同じように、私はそっと場を離れた。

ルイに視線だけで合図を送り、任せる。


重厚なカーテンの向こう。

外界から切り離された、静かなテラス。


夜風が、頬を撫でた。


(……はぁ)


肺いっぱいに空気を入れる。

胸の奥に溜まりに溜まったものを、吐き出すように。


もう、遠慮はしない。


溢れた光が、夜空へと解き放たれる。

淡い煌めきが弧を描き、花火のように広がる。


流星雨。

祝福の雨。


二日目ともなると、国中はそれを“イベント”として受け止めている。


遠くで歓声が上がるのが聞こえた。


「……はぁ~! スッキリ!!」


肩の力が、ようやく抜けた、その瞬間。


「……なんという……美しさだ……」


低く、聞き覚えのある声。


心臓が跳ねた。


振り返ると、そこにいた。


――エリック。


「……っ!?」


驚きで言葉が詰まる。


(なんで……?)


彼は、舞踏会が始まる前から、ここで待っていたのだろう。

その視線に、ぞっとする。


「……すまない。少しだけでいい……話せるか?」


元婚約者。

かつての、私の“居場所”。


逃げにくい衣装。

叫べば、護衛は来る。

でも、騒ぎにしたくない。


「……少しだけなら」


答えた瞬間、エリックの顔がぱっと明るくなった。


謝罪。

後悔。

そして――想い。


「……戻ってこい。俺の傍へ」


「……は?」


意味が、分からない。


「私には夫がいます」


「大丈夫だ。君が俺を選べば済むことだ」


「私は二度とハーバル王国へは戻りません」


「……では、君とこの国で生きろと?」


(会話が、噛み合わない……!)


一歩。

また一歩。


距離が、縮まる。


動揺が、身体に出た。

淡い光が、無意識に滲む。


エリックの喉が、鳴ったのが分かった。


腕を、掴まれる。


「……俺を愛しているんだろう? ミアを殺したいくらいに」


「……私はやってない!」


「ミアのことは誤解だ。ただの戯れだったと、気が付いた」


引き寄せられる。

頭を掴まれ――口付けられそうになる。


(いや、いや、いや!!)


ルイにしか触れられたくない。

私は、ルイを愛している。


ルイ以外は、嫌!!!


「たすけて!!」


叫んだ瞬間。


空気が、凍った。


エリックの身体が、地面に伏せる。


「……死ぬ覚悟、できてるんだな」


レオの声。

剣気が、肌を刺す。


カーテンが、勢いよく開いた。


(ルイ……!)


そう思った瞬間。


――見えてしまった。


ルイの腕に、絡みつく桃色。


「……は???」


思考が、止まる。


「また!? 死んだはずの女が、しつこすぎない?」


ミアの声。


その一言で、世界が凍りついた。


――死んだはず?


「イベントの邪魔ばっかり」


エリックが、ミアを見る。


「あら。エリックもいたのね」


ぱっと、華やかな笑顔。


「そうよ! エリックは悪役令嬢に返すわ!

 私の好みは、ルイ陛下だから!」


胸を押し付け、くねくねと擦り寄る。


悪役令嬢。

ヒロイン。

前世の記憶。


(……あ)


すべてが、繋がった。


本来、あるはずのなかった国外追放。

無実なのに、覆らなかった断罪。

暗殺者。


「……は? 交換???」


「私が王妃をするから、貴女はエリックに返すわ」


――聞き間違いじゃない。


私は、ルイを見る。


彼は、ミアには一切視線を向けず。

ただ、私だけを捉えていた。


すっと、ミアを外す。

触れない。

振り返らない。


まっすぐ、私の方へ歩いてくる。


その足取りに、迷いはない。


「……また……詰みかけ?」


そう呟いた私の前で。


王が、女神の前に立った。



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