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元奴隷から愛される異世界生活。  作者: ChaCha


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強制力に違いない

晩餐会の夜は、終わったはずなのに終わらなかった。

というより、終わらせてもらえなかった。


目を覚ますたび、隣にいるのはルイで。

抱き寄せられて、息が近くて、体温が逃げ場を失って。

眠ったと思ったら、また朝に引き戻される。


「……あ、朝……?」


白い光がカーテンの隙間から差し込む。


「おはよう」


低い声。

腰に回された腕が、そのまま外れない。


「……おはよう」


昨夜の余韻が、身体の奥に残っている。

詰まされて、抱き締められて、逃げ場を塞がれて。

それなのに――。


(……どうして)


胸の奥で、別の記憶が疼いていた。


式典。

王妃として名を呼ばれた、あの瞬間。


あの女が、立ち上がってきたとき。

場違いなほど堂々と、ルイの隣に立った、あの時。


騒然とした空気の中で、ヒロインが乱入してきた時。


私は女神席で固まっていた。

視線が集まりすぎて、逃げ場がなくて。

ただ、ルイを見た。


アグナス王。

私の、夫。


……彼は。


あの子を見て、笑った?


(え)


理解が追いつかなかった。

社交的な微笑み?

王としての対応?


それとも――。


(……え、なにそれ)


胸の奥が、嫌な音を立てた。

きし、と軋むような、不快な感覚。


(ヒロイン補正……?)


そんな言葉が、

一瞬、脳裏をよぎった自分に、ぞっとした。


――違う。

違うよね。


ルイが、あの子に意味のある笑みを向けるはずがない。

私はそう、思いたかった。


「メイ様」


侍女の声で、現実に引き戻される。


「今日の朝食は、庭園でいかがですか?」


庭園。

その言葉に、少しだけ心が軽くなる。


「……そうするわ」


私のために整えられた庭園。

色とりどりの花が咲き乱れる、春の庭。

ここは、好きだ。


歩き出すと、自然と光が淡く溢れる。

無意識のまま、周囲を癒してしまう。


「……大丈夫か?」


隣を歩くレオが、私を覗き込む。


「うん。心配かけちゃってごめん」


そう答えたけれど、声は少し震えていた。


「……アイツらが、メイに暗殺者を送ってきた奴らだろ?」


唐突な言葉。

でも、私の記憶は、一瞬であの日へ引き戻される。


「……多分。ううん。きっとそう」


――低い声。


『恨みはねぇが……金、貰っちまったんでな』


道を塞ぐ影。

理解するより先に、血の匂いがした。


赤く染まる御者台。

叫ぶ暇もなく、馬車は暴走する。


――死ぬ。


そう思った瞬間。


崖。

引っかかる感覚。

馬車が深い川底へ沈んでいった、あの日。


「……っ」


呼吸が、浅くなる。


「今は、ふたりがいるから大丈夫」


自分に言い聞かせるように呟くと、

レオが、そっと頭を撫でた。


「大丈夫だ」


その手の温もりに。

私は、やっと息を吸えた。


他愛のない軽口を叩き合いながら、東屋へ向かう。


……そこには。


――そこには。


ルイがいた。

そして、あの子も。


手を伸ばし合っているように見えて。

距離が近くて。

甘い雰囲気――私には、そう見えた。


私と目が合った、その瞬間。

ルイが、笑った……?


(……え)


胸が、冷たくなる。


ヒロインが、ルイを望めば。

ヒロインが、強く願えば。


――攻略されてしまう?


そんな、あり得ない考えが、

頭から離れなくなる。


「……ルイ?」


声が、掠れた。


どうして、ヒロインといるの?

どうして、触れて微笑んでいたの?


また、私は。

また、ヒロインに、何もかも奪われるの?


「……いや……」


だめだ。

ここにいたら、だめ。


はやく、離れなきゃ。

詰む前に。

――そう、詰んでしまう前に。


踵を返して、走る。


「メイ!」


レオの声。

追いかけてきてくれる。


でも――。


ルイは……?


来ない。

なぜ……?


「メイ! メイ!」


抱き締められて、やっと止まる。


「うぇーん……兄貴ぃ……こわい……」


子どもみたいな声が出て、自分でも驚いた。


(なにが、そんなに……?)


レオの腕の中で、私は震える。


「……ルイが……ルイが……攻略されたら、どうしたらいいの……」


「攻略?」


困惑した声。

レオが首を傾げる。


「……ううん。ルイが、浮気した!」


「いや、それは有り得ないだろ」


即答だった。

迷いも、疑いもない。


その優しさに、胸がじんとする。

胸が、少しだけ軽くなる。


――信じてる。

兄貴は、最初からずっと私を守ってくれた。


その瞬間。

お腹が、鳴った。


「……今日は、俺と朝食とるか?」


「そうする」


女神だ。

王妃だ。

周りが、何と言おうと。


兄貴のそばは、変わらず安全だった。


「……兄貴は、いつも詰みそうな時、助けてくれる。ありがとう」


「当たり前だ」


その言葉に、淡い光が溢れる。

嬉しくて、安心した。


「ほら、あーんしろ」


差し出された果物を、ぱくり。

あっこの味…

「……好き」


「俺も、好きだ」


兄貴の声は、穏やかで。

その穏やかさが、逆に

――胸を締めつけた。


(……私、どうしたらいいんだろう)


(はやく……あの人達……国に帰ればいいのに……)


今日の夜は、舞踏会。


――嫌な予感しかしない。


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