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元奴隷から愛される異世界生活。  作者: ChaCha


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晩餐会と祝福の流星雨

晩餐会は、静かだった。


音楽は流れている。

食器が触れ合う音も、衣擦れも、確かにある。

けれどそれらすべてが、ひとつの規律に従って配置されたみたいに、過不足なく整えられている。


――あ、これ。

公式中の公式だ。


そう理解した瞬間、背筋がぴんと伸びた。


長いテーブル。

左右に並ぶ諸国の使節と重鎮たち。

その最奥、わずかに高く設えられた位置に、王と王妃の席。


……つまり。

私と、ルイ。


「……胃が痛い」


口には出さない。

出したら“記録”に残りそうだから。


王妃として座っているだけなのに、視線が集まる。

正確には――私“だけ”に、やけに集まる。


(あの……王様は、あっちですよ……?)


ちらり、と視線を動かす。

ルイは、堂々としていた。


背筋は伸び、肩は揺るがず。

穏やかに言葉を返し、必要な場面では最低限の動きで場を制す。

さっきまでの騒動なんて、本当に何もなかったかのような振る舞い。


(……すご……)


王だ。

完全に、王。


それに比べて私はというと――。


なぜか、近い。

人が、近い。


挨拶に来る使節。

礼を述べる貴族。

視線を向けるだけで、なぜか一歩踏み込んでくる人たち。


距離が、近い。


(ち、近い……!)


息が詰まる。

悪意はない。

むしろ逆。敬意と、感謝と、よく分からない安心感。


……癒し、だよね。これ。


分かってはいるけれど、正直しんどい。


胸の奥が、きゅっと縮こまる。

光を抑え込むみたいに、呼吸を浅くする。


(今……すごく……癒しが欲しい……)


さり気なく、周囲を見回す。


警戒の視線。

礼儀正しい笑み。

敗者の席――ハーバルとディバンの使節たちは、今夜、完全に“理解している”顔をしていた。


あ、これは。

今日は、何もできない夜だ。


誰も。

何も。


だからこそ――。


(……息抜き……)


テラスだ。


私は、そっと席を立つ。

誰にも気づかれないように、というより。

“気づいても止めない”という確信のもとで。


ルイを見る。

目が合う。


ほんの一瞬。

言葉はない。


でも、その一瞬で十分だった。


(この場は、任せるね)


テラスへ向かう回廊は、重厚なカーテンで仕切られている。

会場側からは、こちらは見えない。


その事実だけで、肩が落ちた。


カーテンを抜けた瞬間。

夜の空気が、肺いっぱいに流れ込む。


「……っはぁ……」


深呼吸。


抑え込みすぎていたものが、一気に緩む。

胸の奥で、きらり、と何かが弾けた。


……あ。


まずい。


気づいた時には、もう遅かった。


淡い光が、私の足元から溢れ出す。

輪になって、静かに、でも確実に広がっていく。


夜の闇に、光の粒子が舞う。

ふわり、ふわりと浮かび上がって――。


まるで。


流星雨。


「……わぁ……」


自分でも、思わず声が漏れた。


きらきらと降り注ぐ光。

花火みたいに弾けて、やがて柔らかく消えていく。


――でも、消えない。


光は、国を包む。

土地に染み込み、空気に溶け、呼吸を楽にする。


会場の外。

街の方角から、小さな声が届いた。


「わぁ、きれい……!」


子どもの声。

それに応える、大人の驚きと笑い。


「……王妃様の……?」

「祝福だ……」


今日の宴を知る者たちが、夜空を仰ぎ、胸に手を当てる。


ああ……。


(……ひぃいい…また詰んだぁあ…)


祝福度、上昇。

女神度、上昇。


詰みに、着実に近づく音がする。


でも。


光が落ち着いた後の夜風は、気持ちよかった。


胸の苦しさが、すっと引いていく。

頭も冴える。


「はー!!すっきり!」


思わず、小さく拳を握る。


「……明日も、テラスに来よう……」


完全に反省していない。


カーテンを戻り、澄まし顔で会場へ。


何事もなかったかのように席に戻ると、

人々はすでに“理解済み”の顔で、再び静かな晩餐に戻っていた。


誰も、何も、言わない。


――言えない。


こうして、第1日目の夜は、恙無く終わった。


公式中の公式。

静かで、完璧で。


そして。


また一段、

“詰みなれた女神さま”への階段を上った夜だった。


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