身投げかよ……
さて。
お腹もいっぱいになった。
一段落、のはず。
……まだ、臭いな。
ちら、と視線をやる。
自分で洗ってもらうしか、ない。
私は泉を指差した。
「身を清めてきなさい」
命令口調になったのは、無意識だ。
彼ははっとした表情を浮かべる。
そして、何かを決意したように、ぎゅっと拳を握った。
……あれ。
覚悟、重くない?
少年は、そのまま泉へ向かい。
一切の躊躇なく。
――飛び込んだ。
……。
身投げかよ!?
水面が揺れて。
波紋が広がって。
……浮かない。
浮いて。
浮いてこな――
「ちょっと待って!?
どうしてそうなるの!?」
叫びながら、私は靴も脱がずに飛び込んでいた。
冷たい。
思ったより深い。
服が水を吸って、身体が重い。
……あ。
これ、私もやばいやつ。
助けるつもりが、
一緒に沈んでる。
多くの水難事故は服を着た状態で起きる。
頭では分かってる。
分かってるのに、パニックになると呼吸が乱れる。
「あっ……詰んだわ、これ」
人助けして、溺死。
新聞に載るやつ。
必死に仰向けになろうとして、
水を飲みかけた、その瞬間。
ぐい、と腕を引かれた。
次の瞬間、
地面が、顔に近い。
「――っ、げほ、げほっ!」
肺から水を吐き出す。
息が、戻る。
……助かった。
顔を上げると、
目の前には、必死な顔の少年。
信じられない。
……なに、この子。
オロオロしながら、
どうしていいか分からない様子で立っている。
私は、息を整えながら睨んだ。
「自殺行為」
一拍置いて。
「一切、禁止!」
少年は、びくっと肩を震わせた。
そして、はっとしたように。
こくん。
こくん。
大きく、頷いた。
……よし。
それからは、
焚き火を起こして、衣服を乾かした。
私はマジックバッグから新しい服を出して、着替える。
その間。
……視線。
じっと、見られてる。
「……あ」
気づく。
「君の服、ないじゃない!」
これだから、貴族ってやつは……。
配慮が、致命的に遅い。
バッグの中を探る。
外套。
シーツ。
裁縫道具。
「……仕方ないなぁ」
即席で、作るか。
私は腕まくりをした。
「みよ!
淑女教育の賜物を!!」
刺繍や裁縫は、嗜みよ。
針を持つ手が、自然に動く。
ちくちく。
もくもく。
「ふはははは!」
我ながら、
めちゃくちゃ良い仕事をしている。
少年には、
服が出来上がるまでの間。
石鹸。
タオル。
手鏡。
小さなナイフ。
渡しながら、念を押す。
「ナイフは髭剃り用ね。
自殺用じゃないからね!?」
髭剃り用具なんて、
バッグに入ってるわけがない。
……自分で、なんとかして?
もくもく。
ちくちく。
……はっ。
つい、
ワンポイントの刺繍まで入れてしまった。
……まぁ、いいか。
顔を上げると、
少年は一歩下がった位置で、静かに正座していた。
……おや?
さっぱりして。
髭もなくなって。
髪も整って。
「……綺麗になってぇ」
良きかな。
良きかな。
完成した服を掲げる。
「はい。
着てみてくれる?」
うむ。
我ながら、完璧。
靴は、ない。
でも、今は上下だけで十分だろう。
少年は、恐る恐る袖を通す。
ぴったりだ。
「どう?
着心地は……」
一拍置いて、私は首を傾げた。
「……名前。
何かしら?」
少年は、
目を見開いた。
まるで、
想定していなかった質問みたいに。
震える唇が、動く。
「……る……るい……」
か細い声。
「そう。
ルイね」
私は、にこっと笑った。
「私はメイよ。
家名は……今は、ないのかな」
軽く言ったつもりだった。
「名乗れなくなっちゃって!」
……明るくて、
ちょっと悲しいお知らせ。
お父様。
お母様。
私の生死、
分からなくて、
悲しんでないかな。
胸が、きゅっとなって。
思わず、しょぼんとする。
ルイは、
そんな私を。
ただ、
じっと。
瞬きもせず、
観察するように見つめ続けていた。




