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元奴隷から愛される異世界生活。  作者: ChaCha


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敗者の配置を見て理解する

ハーバル王

王都に入った瞬間から、違和感はあった。


通りは広く、石畳は磨かれ、建物の修繕も行き届いている。

だがそれ以上に、目についたのは――人々の顔だ。


怯えが、ない。


戦後の国にあるべき疲弊も、疑念も、諦観もない。

代わりにあるのは、落ち着いた確信。

この国は、これからも折れない、という前提で生きている顔だった。


「……」


ハーバル王は、馬車の中で口を閉ざしたまま、外を見ていた。

随行の貴族たちは、声を潜めている。

誰もが、同じ空気を感じ取っていた。


――招かれた側なのに、主導権がこちらにない。


王城へ続く道の途中、広場の一角に設けられた臨時の控え所。

そこに集められている“別の一団”を見た瞬間、胸の奥が冷えた。


ディバン帝国の使節団。


いや、正確には――残党。


数は少ない。

服装は整えられているが、誇りがない。

立ち位置が、明らかに低い。


視線を上げない。

周囲を見ない。

誰かの許可を待つように、ただそこに“置かれている”。


その配置を見ただけで、理解してしまった。


「……ああ」


声にはならなかった。

だが、確信が胸に落ちた。


――これは、対等な式典ではない。


勝者が、敗者を見せるための場だ。


ディバン帝国は、滅んだ。

だが完全に消されたわけではない。


消されなかった理由。

それが、今ここにある。


「……処理、か」


王は、思わず呟いた。


隣にいた老臣が、わずかに身を寄せてくる。


「陛下……?」


「いや」


首を振る。


「これは、見せしめだ。

 “我々も、同じ席に座りたくなければ”という、無言の忠告だ」


老臣の喉が鳴った。


ディバンの者たちは、王都の中心には近づけない。

だが完全に隔離もされていない。


見える位置。

視線が届く距離。

だが、手は届かない。


――敗者の席。


それは、ハーバル王にとっても無縁ではなかった。


かつて。

旧アグナス王国が、援助を求めてきた時。


ハーバル王国は、それを断った。

合理的判断。

国益を優先した結果。


だが今、その判断が、別の形で返ってきている。


「……選ばれなかった国」


その言葉が、脳裏をよぎる。


アグナス王国は、生き残った。

いや――選ばれた。


誰に、何をもって。


答えは、まだ見えない。

だが、確かなことが一つある。


この国は、力を隠していない。

見せつけている。


「式典の配置を、再確認しろ」


王は、低く命じた。


「我々の席は……どこだ」


侍従が、少し間を置いて答える。


「……ディバン帝国よりは、上です。

 しかし、主賓席からは距離があります」


その“間”こそが、すべてだった。


ハーバル王は、背もたれに深く身を預けた。


逃げられない。

断れない。

そして――見誤れない。


「……エリックは、何を思うだろうな」


ふと、息子の顔が浮かぶ。

王子としての自負。

軽さ。

そして、過去に捨てたもの。


それらが、明日の式典で、どう映るのか。


王は、目を閉じた。


明日。

アグナス王国は、“強国”として世界に立つ。


その席に、ハーバル王国は座らされる。


――敗者ではないが、勝者でもない位置に。


理解してしまった以上、もう戻れない。


王として。

国として。


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