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元奴隷から愛される異世界生活。  作者: ChaCha


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増える民と、離さない決意

報告書は、机の端から端まで並んでいた。


紙の匂い。

インクの乾ききらない感触。

朝の光が、窓から差し込み、文字を照らしている。


――増えている。


数字が、嘘をつかない。


一日。

また一日。


人が、国に流れ込んでくる。


元ハーバル王国の民。

商人。

職人。

土地を失った者。

名を捨てた者。


理由は、様々だ。


だが、行き先は同じ。


アグナス王国。


俺の、国。


そして。


――彼女の、いる場所。


「……ふ」


思わず、息が漏れた。


恐怖ではない。

焦りでもない。


確信だ。


これは、止まらない。


「殿下」


いや。


「陛下」


呼び直される声。


顔を上げると、官僚たちが整列している。

目の下に、薄く疲労。

だが、目は死んでいない。


皆、分かっている。


この国は、今、伸びている。


「今日の流入は?」


「概算で、二千三百」


即答。


「想定より早いな」


「はい。

“女神様がいる国”として、噂が……」


そこまで言って、言葉を切る。


俺は、頷いた。


当然だ。


女神が、選んだ国。

王を、選んだ国。


蒸発した戦場。

救われた民。

死ななかった兵。


誰もが、見た。


そして、聞いた。


――あの女神は、救う。


「受け入れ体制は?」


「区画拡張は進行中です。

公爵家――シルヴァ家の支援で、物資は潤沢です」


「治安は?」


「問題ありません。

王室護衛総監が……」


レオの名が出た瞬間、少しだけ口角が上がる。


「そうか」


頼もしい。


あいつは、護ると決めたら、最後まで護る。


――彼女を。


「医療は?」


「治癒魔術師の数は足りていますが……」


一瞬の、躊躇。


「……女神様への負担を、懸念する声が」


ああ。


そこか。


「それは、俺が止める」


即答。


空気が、少しだけ引き締まる。


「女神は、国の資源ではない」


言葉を選ぶ必要はなかった。


「彼女は、俺の妻だ」


誰も、反論しない。


当然だ。


あの即位式を見た者が、疑うわけがない。


寝転がったまま王冠を載せた女神。

それを、誇らしげに受け取った俺。


――選ばれたのは、俺だ。


会議を終え、皆が下がる。


静かになった執務室。


俺は、椅子に深く座り直し、目を閉じた。


頭の中に浮かぶのは、報告書ではない。


胃を押さえ、眉を寄せる彼女の顔。


「……胃が痛い」


そう呟いていた。


女神の癖に。


人が増えるたび、責任を数え。

救われるたび、自分を削ろうとする。


――馬鹿だ。


優しすぎる。


「だから」


俺は、目を開ける。


窓の外。


城下町は、今日も騒がしい。


生きている音がする。


「離さない」


誰に聞かせるでもなく、呟く。


彼女が、女神である必要はない。

国の象徴である必要もない。


ただ。


ここに、居てくれればいい。


「……逃げようとしたな」


ふっと、思い出す。


夜陰。

研究室。

扉の向こうを窺う背中。


可笑しかった。


――逃げ道は、すでに塞いであるのに。


民が増える。

街が広がる。

国が、彼女を必要とする。


それでも。


最初に、囲ったのは俺だ。


指を、机の上で組む。


「外堀は、埋まった」


公爵家。

護衛総監。

官僚。

民衆。


すべてが、彼女を中心に回る。


だが。


中心に立たせない。


俺の隣から、動かさない。


「……女神様」


その呼び名は、他人に許す。


だが。


触れるのは、俺だけだ。


守るのも、抱くのも。


彼女の胃が痛む限り、

俺は、国を膨らませ続ける。


――彼女が、逃げられないほどに。


静かで。


確実な。


王の、決意だった。


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