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元奴隷から愛される異世界生活。  作者: ChaCha


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人が増え続ける街

朝の鐘が鳴る。


低く、澄んだ音が、石造りの街に広がった。


アグナス王国の朝は、ここ数日で、確実に変わっていた。


「……また?」


城門の詰め所で、若い兵が目を見張る。


門の外。

街道の向こうから、馬車が続いている。


一台。

二台。

三台――いや、もっとだ。


荷を満載にした商人の馬車。

家財道具を積んだ家族連れ。

徒歩で歩く者もいる。


「今日だけで、何組目だ?」


「数えるのをやめた」


門番の声は、呆然としているが、拒絶はない。


むしろ。


「ようこそ、アグナス王国へ」


その言葉が、自然に出るようになっていた。


街に入った瞬間。


人々は、足を止める。


「……賑やかだ」


誰かが、ぽつりと呟いた。


通りには、声がある。

店先には、笑顔がある。

焼き菓子の匂い。

鉄を打つ音。

子どもが走る足音。


「戦争が終わった国、だよな……?」


その疑問は、当然だった。


砦があった国。

敗戦国。

元は、ディバン帝国に蹂躙されていた国。


――それなのに。


「……活気、ありすぎじゃない?」


案内役の市井の男が、笑った。


「そう言われるようになったのは、最近だな」


「最近?」


「ええ。

“女神様”が来てからだ」


その言葉に、移住者たちは、顔を見合わせる。


噂は、知っている。

聞きかじった話も、ある。


だが。


街の空気は、噂よりも、ずっと現実的だった。


市場。


空き店舗だった場所に、新しい看板がかかっている。

昨日まで空だったはずの区画に、布が敷かれ、商品が並ぶ。


「この区画、空いてたんじゃ?」


「三日前までな。

今朝、入居が決まった」


「……早くない?」


「早い。

だが、遅れたら取れない」


その言葉が、事実になりつつある。


職人街。


金槌の音が、重なっている。


「仕事が増えすぎて、人手が足りん」


「じゃあ、断れば?」


「断る理由がない」


「……ああ」


兵舎。


志願兵の列が、伸びている。


元傭兵。

元奴隷。

国を失った者。

居場所を求める者。


「アグナス王国に仕えたい」


その言葉に、誰も笑わない。


なぜなら。


「……王が、蒸発させたって本当か?」


「本当らしい」


「一瞬で?」


「一瞬で」


その“一瞬”が、恐怖ではなく、安心として語られている。


王城の周辺。


白い外套の治癒魔術師たちが行き交う。


担架はあるが、血はない。

呻き声も、ほとんどない。


「……助かるのが、前提みたいだ」


移住してきた老医師が、静かに言う。


「ここでは、死が、敗北扱いされている」


「それが、普通じゃないのか?」


「普通だったら、どれほど良かったか」


街の中央。


小さな広場に、人だかりができている。


彫刻師が、石を削っている。


形は、もう分かる。


――女神像。


「もう出来てるの?」


「三体目だ」


「三体目!?」


「場所が足りん、という声が出てな」


笑い声。


冗談のようで、冗談ではない。


誰も、止めない。


誰も、咎めない。


それどころか。


「……守られてる、って感じがする」


そう言って、胸に手を当てる者がいる。


「理由は分からん」


「でも」


「この国にいたら、生きられる気がする」


夕方。


城門の外に、また馬車が来る。


門番が、名簿を確認する。


「……ハーバル王国から?」


「はい」


少しだけ、視線が泳ぐ。


だが、次の瞬間。


「ようこそ」


同じ言葉が、繰り返される。


夜。


灯りが、増えた。


昨日まで暗かった路地に、明かりが灯る。

新しい家に、火が入る。


街は、重くなっていく。


人の重み。

声の重み。

生活の重み。


誰も、叫んでいない。

誰も、奪っていない。


それでも。


確実に、国が、膨らんでいた。


そして、誰もが、薄々気づいている。


――ここは、選ばれた側だ。


選ばれなかった国が、静かに人を失う一方で。


アグナス王国は、

何も言わず、

何も約束せず、

ただ“居場所”を示している。


それだけで、人は集まる。


夜風が、街を撫でる。


灯りは消えない。


この国は、今。


生きている。


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