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元奴隷から愛される異世界生活。  作者: ChaCha


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カウツ街の宿

宿の扉を閉めた瞬間、

私は思わず深く息を吐いた。


……壁。

屋根。

鍵。


「……文明……」


石造りの部屋は質素だけれど、清潔で、

小さな窓から街灯の光が差し込んでいる。


ベッドは、二つ。


……二つ。


部屋を取った時は、

深く考えていなかった。


今さら、じわっと気づく。


「あれ?

 部屋……同じでよかった?」


レオは、もう荷物を置きながら言った。


「今さらだな」


……ですよね。


ここまで一緒に森を越えてきて、

今さら男女とか、距離感とか。


命の方が、

よっぽど近かった。


私は、ベッドの端に腰掛け、

マジックバッグを開く。


寝る前の、

いつもの確認。


ポーション。


種類。

数。


……減ってる。


秘伝の回復ポーション。

私が、何度も研究を重ねた、

とっておき。


――レオを救う時に使った分。


「……あと、二本しかない……」


思わず、声に出た。


(材料、集めて……作らなきゃ)


胸の奥が、きゅっとする。


このポーションは、

ただの回復薬じゃない。


「生きていい」って、

自分で自分に言い聞かせるためのものでもある。


……なくなったら、困る。


だからこそ。


冒険者ギルドに登録した。


身分証。

素材収集。

依頼を受ける側になるため。


逃げるだけじゃ、

生きられない。


……レオは、どうするんだろう。


ここまでの護衛で、

終わり?


ルクス王国まで、

ついてきてくれる……?


……まさか、ね。


胸の奥に、

小さな不安が芽を出す。


その時。


「先、風呂行ってくるわ」


レオが、気軽に言った。


「あ、どうぞ……」


私は、ベッドに仰向けになり、

天井を見つめる。


湯の音。

水の音。


……静かだ。


しばらくして。


扉が、きい、と開いた。


「おー。

 やっぱ風呂は最高だな」


――誰?


一瞬、本気でそう思った。


髭が、ない。


髪は、濡れて、

少し乱れて。


……え。


「……」


「……」


数秒、

見つめ合う。


「……誰?」


「ひどくね?」


……オッサンじゃなかった。


思ってたより、

ずっと若い。


私より、

少し年上……くらい?


「……え、あ……

 その……」


視線を逸らしつつ、

正直に言う。


「髭がないと……

 オッサンじゃないんだなって……」


「おい」


レオが、笑った。


「なんだ?

 惚れたか?」


「いえ、まったくもって」


即答。


「琴線に触れなくて、申し訳ないです」


「痛烈!」


胸を押さえて、

わざとらしく倒れる。


「俺、モテまくりなのに!」


「はいはい」


……この距離感。


ちょっと、

寂しくない。


寝る前。


それぞれ、

自分のベッドに入る。


明かりは、

少し落とした。


「なあ」


レオが、天井を見たまま言う。


「ギルドでな。

 例の密輸……調査依頼が入ってる」


心臓が、少し跳ねた。


「俺、指名だ」


……やっぱり。


「レオ、強いもんね……

 死にかけてたけど」


「それ言うな」


くす、と笑う。


「でもな」


少し、間が空く。


「……明日で、別行動だ」


胸の奥が、

すっと冷えた。


「俺は、その依頼を受ける」


……分かってた。


「お前は、街に残れ。

 ここは、もう安全圏だ」


優しい声。


……だから、余計に。


「……また、一人旅かぁ……」


ぽつりと零れる。


怖い。

正直、怖い。


でも。


引き止める理由は、

どこにもない。


「大丈夫だ」


レオが、そう言った。


「お前は、生き残る」


自信満々に。


「だって、

 あんな状況で生きてるんだからな」


……それ、

褒め言葉なのかな。


少しだけ、

目頭が熱くなった。


「……ありがとう」


「礼はいらねぇ」


布団が、少し軋む。


「生き延びろ。

 それだけだ」


部屋に、

静けさが戻る。


同じ部屋。

別々のベッド。


でも、

道は、分かれる。


私は、

目を閉じながら思った。


――また、独りになる。


不安は、

確かにある。


それでも。


歩くしか、ない。


私の、人生だから。



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