結婚式。女神、観念する
わぁ……すごーい。
神殿の奥から奥まで、白と金で埋め尽くされている。
天井は高く、光は柔らかく、花弁が舞って――いや、舞いすぎでは?
拍手。
祝福。
歓声というより、これはもう……嵐。
「おめでとうございます!」
「女神様……!」
「祝福を……!」
……うん。
聞こえないふりをしよう。
私は今、現実逃避中だ。
足元に敷かれた白い布。
ふわふわしてて、やたら高級そうで、踏み心地がよすぎる。
これがバージンロードってやつか。
……いや待って。
「いやいやいやいや」
小声で呟きながら、一歩、また一歩。
逃げられなかった足が、今はちゃんと前に出ているのが腹立たしい。
身体は相変わらず、ほんのり光ってる。
自覚ある。
制御? 知らない。
今はもう、諦めの境地だ。
視線を上げると――
いた。
ルイ。
正装している。
黒を基調にした礼服。
背筋はまっすぐ。
視線は、完全に私だけ。
……なにその顔。
勝ち誇ってる。
絶対、勝ち誇ってる。
悔しい。
一歩、また一歩。
近づくほど、神殿の空気が変わる。
祝福の音が、少し遠のいて。
心臓の音だけが、やたら大きい。
ルイが、手を差し出した。
当たり前みたいに。
逃げ場がないみたいに。
私は一瞬だけ躊躇って――
その手に、そっと自分の手を重ねた。
……あ。
あったかい。
指が長くて、力が強くて、でも包み込むみたいに優しい。
神官の声が響く。
「――神々の祝福のもと……」
聞いてない。
全然、聞いてない。
だって。
ちらっとルイを見たら。
……勝ち誇った顔してた。
「……っ」
腹立つ。
ほんとに腹立つ。
神官「汝、ルイ・アグナス。愛し、慈しむことを誓うか」
ルイは、即答だった。
「誓います。
生命を捧げ、愛し、慈しみ、二度と離しません」
……重い。
いや、重すぎる。
生命捧げなくていい。
離さなくていいとは言ってないけど、二度とは言わなくていい。
神官「汝、メイ・シルヴァ。
同じく誓うか」
……くっ。
私は、精一杯の抵抗をする。
「……はい」
声、ちっちゃ。
ほんとにちっちゃ。
神官「では――誓いの口付けを」
……はっ!?
口付け!?
瞬間、ざわっと神殿が色めいた。
祝福の気配が、一気に前のめりになる。
ルイが、ゆっくりとベールに手をかける。
近い。
近いよ。
顔が近い。
あ、あたる……!
視線が絡む。
逃げられない。
逃げないって決めたのは私だけど、近いのは別問題!
――唇が、重なった。
軽く。
一瞬。
……と思ったら。
角度が変わる。
もう一度、唇。
さらに。
舌が、そっと、なぞる。
「……っ」
深くなる。
息が、混ざる。
逃げ場がない。
「ん……っ」
ちょ、待って。
深い。
深すぎる。
息――
「息ができない!!!」
思わず叫んだ。
ルイが、ようやく離れる。
はぁ、はぁ、と息を整える私。
涙目。
見上げると。
……悪い笑み。
完全に、確信犯。
「ヤバいよ!この人ー!!!!」
神殿内に、私の声が響き渡った。
一拍の沈黙。
次の瞬間。
拍手。
大歓声。
祝福の嵐。
「お幸せにー!!!」
「女神様ー!!」
「王万歳!!」
なんで!?
なんで今の流れで拍手なの!?
意味がわからないまま、結婚式は進み。
気づけば、終わっていた。
あれよあれよと運ばれ。
あれよあれよと脱がされ。
あれよあれよと夜着を着せられ。
……流されすぎでは?
そして。
王と王妃の寝室。
広い。
豪華。
落ち着かない。
私は、畳まれたように、ちょこんと正座していた。
背筋、ぴん。
「……詰んだ」
小さく呟く。
扉が、静かに閉まる音がした。
逃げ場は、もう――ない。




