初めての街と、冒険者ギルド
この世界で生きてきた私と、前世の私。
その二つが、この二ヶ月で、ゆっくり溶け合った気がする。
森での生活。
毎日が生存確認。
死にかけて、助けられて、また進んで。
……主に、レオに。
ふふ。
――なお現在。
植物モンスターの蔦に絡め取られ、
私は地味に宙づりになっている。
「……詰んだわぁ」
間の抜けた声が、森に響いた。
「動くなよー。
首、一緒に飛ぶぞ」
ゾワッ。
一気に血の気が引いた。
「……っ、はぁ、はぁ……」
息が浅くなる。
絡みつく蔦は、じわじわ締め付けてくるし、
微妙にぬるっとしてて気持ち悪いし。
……ほんと、
レオがいてよかった。
一閃。
蔦が、音もなく切り落とされる。
私は、その場にへたり込んだ。
街道が近づくにつれ、
森の空気が変わる。
踏み固められた道。
石が敷かれ、ところどころに刻まれた魔術陣。
「あー……」
今さらだけど、
街道って、安全だったんだなぁ……。
討伐隊が定期的に魔物を狩り、
生活圏と危険区域を、きちんと分けている。
一歩、外れただけで、
命の値段が変わる。
当たり前のことなのに、
身をもって理解するまで、
分からなかった。
「そろそろ街だ」
レオが、前を見ながら言う。
「……ベッド……風呂……文明……」
「酒、酒、肉」
……ダメな大人がいる。
でも、分かる。
めちゃくちゃ分かる。
「追っ手、ここまでは来ないよね……?」
自分に言い聞かせるみたいに呟くと、
レオは肩をすくめた。
「あれから二ヶ月。
娘っ子一人、森で消息不明」
……娘っ子?
「まあ、死んだと思われてるだろ」
軽く言うけど、
それ、私なんだけどね。
見えてきた城壁。
門。
人の気配。
「――カウツ街だ」
自然発生のダンジョンが点在し、
冒険者で賑わう街。
人の声。
馬車。
商人の呼び声。
……すごい。
「……すごい!!」
思わず声が弾んだ。
石造りの建物。
看板。
活気。
異世界ファンタジーだ!
テンションが、勝手に上がる!
「迷子になるなよ?」
「ならないよ!
……たぶん!」
レオが、
ちらりと周囲を見渡す。
「ここは安全だ」
その一言で、
肩の力が抜けた。
そして。
――冒険者ギルド。
見覚えのありすぎる建物。
大きな扉。
人の出入り。
「……ゲームあるあるの……」
胸が高鳴る。
「私も登録する!!」
勢いよく言うと、
レオが横目で見る。
「何かスキル持ちか?」
「ふっふっふ!」
胸を張る。
「錬金術よ!!!
特に、ポーション作りは自信あるわ!」
「魔具爆弾は?」
「……作れるけど。
作りたくない」
「優しいお前には、キツそうだもんな」
……否定できない。
受付に並び、
手続きを済ませる。
キョロキョロ。
周囲を警戒。
だって、冒険者ギルドといえば――
絡まれるイベントが発生しやすいはず!
新人狩り!
いちゃもん!
お決まりパターン!
……来い。
……来ない。
「はい。
こちらが、ギルドカードです」
「あ、ありがとうございます」
……あれ?
何事もなく、終了。
カラン。
ギルドの扉を出た。
「……おかしい」
「なにが?」
「……絡まれない」
レオが、口の端を上げる。
「絡んでやろうか?」
「それじゃない!!」
違う!
そうじゃない!!
ふつうに、
冒険者デビューしてしまった。
拍子抜け。
キョロキョロ。
……絡まれないな。
(俺がいるのに、
絡まれるわけないよな)
目を細めて、
レオは、少しだけ笑った。
私は異世界ファンタジーの街に浮かれて、
冒険者になれたことに、
ただ、胸を弾ませていた。




