アンタにおすすめの職業(ジョブ)は【受付転生者×引きこもり聖女】《3分恋#3》
「えっ、転職!? あ、いえ。ヴィズさんにおすすめの職は――」
ギルド受付10年目ともなると、S級冒険者が転職したいと言い出しても動じない。後で上司に叱られても。
「はぁ。オレが転職したいくらいだよ」
こっそり、昔の履歴書を開く。
リクト・19歳・男。ギルド候補生、主席卒。
身体能力は悪くなく、スキルにも期待したが――引き当てたのは「鍵開け」。
盗賊職に向いていても、「呪い解除」や「探知」と比べられ、誰にも誘われなかった。
今ではギルドの雑用係。
元の世界と同じ、書類まみれの毎日だ。
「おーい、リクトくん」
「は、はい!」
書類を背中へ隠すと同時に、ボスが来た。
除籍寸前の人に、声をかける仕事――たまにある。
「担当は……」
トゥク・22歳。
珍しい、聖女だ。
しかも同じ転生者で日本出身。
「【状態異常解除】……強スキルなのに」
なぜ除籍寸前なのか。
首を傾げつつ、下宿のドアを叩くと。
「だれ……?」
掠れた声。
名乗っても、反応はない。
「何かひとつでも依頼をこなすだけで、除籍は免れますよ」
事情を説明しても――。
「帰って……ください」
この日、ドアは開かなかった。
強スキル持ちの除籍は、ギルドの損失。
それに、同じ転生者を放っておけない――でも、いつもドアは閉じたまま。
知れたのは、何日も水だけで過ごしていることだけ。
「久々にアレ、作るか」
ドア前へおにぎりを置いた。
繰り返し、何日も。翌朝は皿だけが置かれている。
いつか、彼女の心を開けたら――そう願い、今日もおにぎりを置いたが。
「あの子、まだ引きこもってるの?」
ボスに肩を叩かれてしまった。
固定報酬を出すギルドとしては、余分な人材を切りたいらしい。
ここまでか――まだ、事情を聞いていないのに。
最後のおにぎりを持って、ドアを叩いたが。
今日も開かない。
当たりスキル持ちなのに――勝手な苛立ちが募る。
「アンタはいいよな。首切られても、やっていけそうだし。オレなんて」
外れスキル持ち――そう、言いかけた瞬間。
背中のドアが開き、引き込まれた。
薄暗い部屋。
髪も服も乱れた彼女――赤髪が張り付いた頬に、涙の跡がある。
「アタシ……この世界が怖い」
あまりに素直な泣き顔に、涙が出そうになった。
聖女として強スキルを得たものの、戦場を連れ回される日々。平和な世界を知る自分には、命がけの仕事なんてできない――。
静かに泣く彼女を、とっさに抱きしめていた。
「命がけで戦うより、泣いて『助けて』って言える方がすごいよ」
震える声で、そう告げると。
燻っていた胸へ火が灯るように、彼女の身体が熱くなってきた。
「でも、私……どうしたら」
「『トレジャーハンター』として組まないか? オレが絶対、アンタを守るから」
乱れた髪の隙間で、翡翠の輝きが強くなった。
「……うん、やってみたい」
初めて見る、涙交じりの微笑み。
「あれ……?」
まだ、お宝探し前だというのに。
彼女の瞳から、目が離せなくなっている。
オレの開いたドアは、もしかしたら――。
どんなお宝よりも貴重なものが、眠っていたのかもしれない。