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回ってるのに音が出ねぇ?

向島の商店街、春の福引き大会は、年に一度の大騒ぎ。


「ガラガラッ……ポン!」


鐘が鳴るたびに拍手が起きて、八百屋の前も魚屋の前も、今日は立派な寄席小屋みたいな賑わい。


そんななか――


「おおっと出ました! 一等賞! 『最新電蓄』ご当選!」


ひときわ大きな声を張り上げたのは、町会長の金原さん。ちょいと声が大きすぎて、鼓膜が震えた。


くじを引いたのは、お茶屋「喜久乃」のおかみさん、八十路を越えた“あきばあ”。


「……でんちく? ……なにそれ、美味しいの?」


そんなあきばあの言葉に、町内の空気が一瞬フリーズ。


「電蓄ってのは、あれですよ、レコードの音が聴ける、最新式の……その、アレだ!」

となりにいた電器店の若旦那、三谷が慌てて口を挟む。


「音が出るってのは……その、針がね、盤にこう……乗るっていうか……」


「針? あたしゃ裁縫は引退したよ」


「いや、そういう針じゃ……ないんですけど……!」


三谷の顔が真っ赤になっていくのを見て、こよみは遠くからクスクスと笑った。


縁側から眺めていたこよみは、おとよを抱えてすっと立ち上がる。


「まったく、町が賑やかってのはいいことだけど、

 機械相手に赤くなってる若旦那を見るのは、なんだかこっちが照れるねぇ」


そっと三味線を背中に背負い、こよみは人混みへと足を向けた。


「……ねぇねぇ、あたしの三味線と、そっちの“でんちく”と、勝負してみないかい?」


唐突なこよみの言葉に、町がどよめく。


三谷はうろたえながらも、うなずいた。


「そ、それはつまり……即興の合奏ってことですか?」


「そうそう。どっちの“音”が人を笑わせるか、勝負ってやつだねぇ」



町内のちびっ子が寄ってきて、

「三味線ってなあに?」「レコードとケンカするの?」ときゃいきゃい騒ぎ出す。


大人たちは、半分あきれて、半分ワクワクしはじめていた。



春の風が抜けていく。


さて、音の鳴る方へ――

騒動のつづきは、第二話へ!


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