1日目午後
トランプで十分遊んだところで、そろそろ日野から解放されようと思って、望んだ本を手にするとわたしはソファに腰掛けてそちらに集中することにした。親睦?深められるか!そんなもの。わたしは断固として、お前を『気に食わない男ランキング』第一位から下げたりなんてしないぞ!そんな決意をしながら、わたしは本を捲る。その様子を見て、日野は文句を言わない。やつも「こいつと親睦を深めるのは無理だ」と結論付けたのだろう。きっとそうだ。
そうしていると、日野はわたしの隣に腰かけた。……何かわたしに文句でも言うつもりか?こうなったら、反応したら負けだと思った私は、少し隣の日野が気になりながら本を読み続ける。――――と、突然日野がわたしの髪をいじりだした。
わたしは気にもしていないようにページを捲る。――――内心パニックを起こしていたが。
「……飯塚の髪って綺麗だよな」
ぼそり、と呟かれた言葉に思わず赤面する。やばい、本当にどうしたこの男。頭でも打ったか?
「……サラサラだし、ずっと触ってたくなる」
……これってなんの罰ゲーム?っていうか、拷問?よくこんな恥ずかしいことができるな、日野。この、女たらし!
正直、囁く声がこそばゆい。至近距離に日野がいるのが、本を読んでてもわかってしまう。震える手を一度ぎゅっと握りしめて、わたしは本を捲る。……日野が微かに笑った。
「耳、真っ赤」
反射的に、わたしは両手で耳を隠す。ドサっと音を立てて落ちる本。日野はその本を拾うと、ソファの前にある机の上に置いた。そして、耳を隠している腕を掴んで無理矢理放すと、耳元で囁いた。
「飯塚って信じられないほど可愛いな」
「……マジで、やめてくれ。日野」
これ以上何か言われると、わたしの顔が林檎になってしまいそうだ。
◇ ◇ ◇
現在わたしは激しく後悔している。
「……やめてあげるから、肩貸してって言われた時点でおかしいと思うべきだったんだ」
わたしはそう呟くが、もちろんわたしの肩を枕にしているこの男にはきっと届かない。スースー、と可愛らしい寝息で寝ている。
……一体なにがあった、日野。本当、頭でも打ったのか?――――突然の日野の態度の変わりように、わたしは戸惑いを隠せない。あんなにも悪口を言ったわたしにどうしてここまで関わる?マゾか?マゾなのか?わたしは決してサドではないっ!
そう思いながら日野を睨む。……無垢な寝顔にどきっとした。そうだった。こいつ、顔はいいんだった。思わず手が出る。
「……うわっ、嫌味なほどサラサラだ」
その触り心地のよさに、何度も何度も彼の髪に手櫛を通す。……うらやましい限りだ。
「ん」
「!」
突然声を出した日野に、思わず手をひっこめた。固まる。しばらくしてわたしは胸を撫で下ろした。……どうやら、まだ起きていないようだ。危ない危ない。わたしは再び彼の髪に手櫛を通した。……本当サラサラだ。うっとりするほど気持ちいい。―――いやいや、うっとりするな、わたし!
手櫛を通すのが面倒になったので、わたしは日野の頭を撫で始めた。気持ちいいのか、微かに笑っている。ついそれが楽しくて、わたしもにやけてしまった。――――え、にやけた?
わたしはすぐに手を放した。心なしか、日野は残念そうな顔をしたように見えた。……いかん、洗脳されてるのかもしれない。わたしは自分の頬を軽く叩いた。目を覚ませ、わたし。目の前にいるのはあの日野だ。ただのイケメンじゃない。人でなしの日野だ。それを忘れたら駄目だ、わたし。
こうなったらわたしも寝よう。そう、一度頭の中を整理するべきだ。うん。わたしは腕を組んで、目を瞑る。――――寝ている間に3日経っていますように、と願いながら。
目が覚めるとわたしは日野に膝枕されていた。「あ、おはよう」日野がにこやかにわたしに声をかける。――――――絶叫したのは言うまでもない。




