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三題噺もどき3

冬―朝

作者: 狐彪

三題噺もどき―ごひゃくはちじゅうよん。

 


 はた、と目が覚める。


 視界の端に映り込む携帯の画面を開き、時間を確認する。

 ……もうそんな時間なのか。いい加減起きないといけない。

 何をすることもないけれど、何かをしたり、しているふりをしたりはしないといけない。

「……」

 それが何の意味を持つのかは分からないけど。

 多少自分の気がまぎれるくらいだから。

 何かをしないといけないと言う気持ちはあるのに、何もできずに一日終わると言う日々を積み重ねていると、次第に何もできなくなりそうで。

 ……まぁ、そうなりつつあるので何とも言えない。

「……」

 家の中にはもう誰も居ない。

 冷蔵庫の中のように冷え切った部屋は、カーテンの色もこの家の静けさもあいまって、海の底にいるような気分になる。

 たった一人で、沈んでいるような気分になる。

「……」

 目が覚めたはいいものの、どうにも体を起こす気にはならない。

 何かをしないといけないというのは、起きた瞬間から脳内で叫び続けているのに。

 それに体がついていかないし、気力もついてこない。

 思考ばかりが先行して、どうにも思うようにいかない。

 それだって、自分の意思でどうにかするしかいないんだろうけど、その意志が使い物にならないんだから、どうしようもない。

「……」

 とりあえず。

 動くだけはしてみようかと、腕を毛布の中から抜け出してみる。

 少しでも冷えた空気にさらせば、起きる気になるかもしれない。ならないかもしれないけど。

 いつもは失敗するそれは、今日はどうやらうまくいきそうだ。

「……」

 次第に、本格的に起き始めた思考回路が、ぐるぐるとめぐりだす。

 今日の脳内BGMは何かのCМソングのようだ。割と陽気な感じだな。……気分は全く陽気ではないけど。なんだろうなこれ、聞いたことはあるはずなんだけど、何のCMかまでは、まだはっきりしない。どうでもいいけど。

「……」

 そんな陽気な曲の背景で思いだすものは。

 全く面白くも楽しくもない記憶ばかりで。

 朝からそんなことを思い出さなくてもいいと言うのに……何のトリガーもないのに思いだすのはなんでなんだろうな。

「……」

 起きただけなのに。

 どうして、そんな、怪我の事ばかり思いだすんだろう。

 その怪我だって、怪我の功名とはならずに、ただ傷として、失敗として、後悔として残り続けているだけのモノばかりで。

 良いことなんて一つもない。

「……」

 そういう夢をみたんなら、分かるけど。

 今日のはもう記憶が朧げになりつつあって分からないけど、絶対そんな夢じゃなかった。訳の分からないものではあったと思うけど。

「……」

 そう、何度も過去の怪我を反芻されると疲れるんだけど。

 それならやめてしまえと思うんだが、そううまくいくモノでもないのだ。やめようとしてやめたところで。別の記憶が重なってきてそれの繰り返しで、ただ辛くなるだけだ。重さが増すだけだ。軽くなんてなりやしない。誰だって、そういう過去はあるだろうけど、皆どうやってこれを降ろしたり抱えたり乗り越えたりしているんだろう。

「……」

 あーもうなんだか。

 ホントに動く気がなくなってきた。

 思考回路ばかりが起きて、いらんことばっかり思いだして。

「……」

 だけどやっぱり、何かをしないといけないと言うのはあって。

 どうにか動こうとしては見るけれど。

「……」

 ダメなものはだめらしい。

 私は今日も使い物にならない。

 ただのお荷物と化していく。

「……」

 ずぶずぶと沈む思考の中で、ぽつ―と窓の外から音が聞こえた。

 雨でも降りだしたのだろうかと思って、カーテンの隙間を覗く。

 ……なんだ、快晴じゃないか。思考と天気のクロスなんて御伽噺のだもんな。









 お題:怪我・雨・冷蔵庫

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