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第18話 瞬足のシューズ


 ロレムは、泣いていた。

 悔しさ、恐怖、無力感。

 どうしようもない現実に、諦めるしかない惨状に涙を流し続けていた。


「ロレム、泣かなくていい。俺がなんとかしてやる」


 シューズがロレムにそう声をかける。


「でも、おじちゃんは足が……」


 この状況で、シューズの最大の持ち味である足を奪われているのだ。

 ロレムにとってそれは、絶望するのに十分過ぎる要因だった。


「それでも大丈夫だ! 俺が絶対お前を救って見せる!」


 それでもシューズは、絶望していなかった。

 いいや、絶望するわけにはいかなかった。

 シューズの終わりは近い。その事実は変えられない事を、シューズは理解していた。


 だから、だからこそ、結末の変わらない自分の残りの時間で、変えなきゃいけない結末があった。




 フーコは5匹の怪物を引き連れて、自身のラボへの道のりを急いでいた。

 やっと手に入れた声パーツの品質を落としたくないし、自分の意志で入ったわけでないダンジョン拠点(ベース)への生物の封じ込めは、通常より支配力を多く消耗する。

 声パーツや精神パーツの剥ぎ取りと保存処置にも多くの支配力を使う。より高い品質でそれを行うために支配力を少しでも多く残したくて、急いでラボに向かっていたのだ。


「え?」


 フーコが自身の拠点(ベース)、壺の中で起きている異変に気づいて声を上げた時には、もうそれは飛び出していた。

 それは、ロレムを抱えたシューズだった。


「まさか出てくるとは……、あれ? 足は切りませんでしたっけ?」


 シューズは、ロレムを抱えて2本の足で立っていた。

 足は繋がっているように見える。

 だがその足は血だらけだ。よくよく目を凝らせば、その足は紐のようなものでギュウギュウに縛られている。


「お前が俺を、二本の足に靴を履いている男だと勘違いしたから、出てこられたよ」


 ロレムを降ろしながら、シューズはそう答えた。

 シューズの足を結びつけるその紐は、靴紐だった。

 シューズの足は切れたままだ。

 その切れた足を、シューズは、拠点(ベース)である靴の靴紐を操り、結びつけることで無理やりつなげていた。


「足に靴を履いてないってなら何に履くって……、うげっ! よく見たらグロ! 何ですかそれ!」


 ただ結びつけているだけじゃない。

 しっかり動けるように、靴紐は肉を抉り、傷口を縫い合わせ、骨にまで巻き付いてしっかりキツく固定されていた。

 吹き出る血も、少しでもシューズが長い時間動けるように、靴紐をキツくキツく巻き付けることで止めている。

 見るからに痛々しいその足で、シューズはそれでも立っていた。


「知りたいのなら、教えてやる!


 右の靴には折れぬ魂、

 左の靴には曲がらぬ信念、

 固い誓いで靴紐結び、

 己の道を突き進む!


 俺は、瞬足のシューズ!


 お前が俺の道の前に壁となって立ち塞がるのなら、

 覚悟しろ。俺はお前を——踏破する!」

 

 渾身の大見栄と名乗りだった。

 その名乗りで、シューズの支配力は研ぎ澄まされていく。


「…………私の運命のカレシたんの声で、そんなクソダサい台詞を勝手に吐かないでくれません? 結末は変わらないのに、よくやりますよ」


 フーコは、とてもとても不愉快そうに、そう返した。

 そのフーコの感情に合わせるように、シューズとロレムの二人を5体の怪物が囲む。


「ちなみにですけど、この5体のペットちゃんより先に、かよわい私を襲うのはオススメしませんよ?

 私が死んだあと、ダンジョン能力による制御が外れたこの子達がどうなるかは、私にもわかりませんから。

 急ぎで揃えたのもあって、ご飯を満足にはあげられてないんですよねぇ。

 与えればいくらでも食べる気がするんですよねこの子達、討伐されるまでにいくつ分の街を食べ尽くす事やら……」


 シューズは内心舌打ちをする。

 フーコさえ倒せば終わるのではないかという淡い期待が消えたからだ。


 かと言って、ここでロレムと逃げる選択肢もない。

 ロレムの重さを抱えたまま逃げ切れるかわからないし、逃げ切れたとしても、ロレムはフーコに狙われている。

 シューズはおそらく、もって数十分から数時間の命だ。

 その時間内で会えそうな相手に、これだけの戦力を持つフーコを相手にロレムを任せて逃げ切ったり、倒し切ったりできそうなアテもない。


 シューズがここで、命の限り全部を倒し尽くすしかない。




 その事がわかると、シューズの覚悟は胎に据わった。

 やるしかない事をやるだけ。

 その当たり前が、シューズの背中をさらに押す。




 シューズが地面を蹴った。

 次の瞬間、カニカマの内の一体を、シューズが蹴っていた。


 フーコが目を見開く。

 蹴りを受けたカニカマは、蹴りの衝撃に体勢を崩していた。

 蹴りの勢いをそのまま加速度として、隣にいたカニカマをシューズは逆の足にくっつけた曲剣で切り付ける。

 外骨格に金属がぶつかる激しく高い音が鳴り響く。

 外骨格はほとんど傷ついていない。

 しかしその音の大きさは、今までのシューズの攻撃力ではない力強さを物語っていた。


 シューズは続け様に地面を蹴り、怪物や曲剣、壁や天井を足場にしながら走り回り、5体の怪物に攻撃をしていく。

 そのスピードは、明らかに今までのシューズより早く、攻撃は力強かった。


「な、なんなんですかあの速度、わけがわからないです!」


 フーコは意味のわからないシューズの唐突なパワーアップに混乱する。

 物語のようなご都合主義のパワーアップでもしているのかと、理不尽を感じさえした。


 シューズの唐突なパワーアップの理由は、命懸けであるゆえに、火事場の馬鹿力的に能力が上がっている部分はもちろんあった。

 しかしそれよりも大きな理由があった。

 それは、『靴紐』だ。


 シューズの足は、そもそも切られているのだ。

 神経も繋がっていない、ただただ形を整えて繋げた足では、そもそも走る事すら出来はしない。

 その神経や筋肉の代わりに動いているのが、シューズの肉を抉って骨に結び付けられている、靴紐の束だった。

 成長して、命懸けであるダンジョン能力の支配力によって操られるその靴紐は、シューズの筋力によって生み出される力を大きく超えてシューズに速度を与えていた。


 しかしもちろん、そんな無理矢理な足の動かし方をすれば、シューズの肉体もタダでは済まない。

 動くたびに靴紐はシューズの痛覚を掻きむしり、神経や肉をズタズタに切り裂いていく。

 通常、動けるような痛みではない。しかし、シューズはそれでも走っていた。




 が、それでもフーコとシューズの優位関係は変わってなかった。

 シューズの攻撃力も速度も上がった。

 しかし、それは硬いカニカマ達怪物の防御力である、外骨格を傷つけられる程のものではない。


 その事実に、フーコは徐々に余裕の笑みを取り戻していく。

 シューズは早過ぎて、カニカマ達の攻撃は当てられていない。

 戦力外であるロレムを人質にするのも、圧倒的な速さのシューズに全部防がれてしまう。

 しかし、シューズもカニカマ達を削っているわけではない。

 この膠着状態の先、シューズの体力が尽きたあとに勝つのは自分だ。

 その事実が、冷や汗をかいていたフーコの口角を上げていった。




 だけど、シューズは知っていた。

 カニカマを倒せる速度とパワーを。

 フレラータと共に放った、あの技の速度を。


 カニカマ達を翻弄しながら、徐々に貯めていったシューズの加速度、それによって生み出された斬撃、それがとうとう、初めてカメレオン型の怪物の外骨格を浅く切り裂いた。


 ギチギチとした怪物の叫び声。

 実はカメレオン型とタコ触手持ちの怪物は、その擬態や拘束などの能力をつける関係上カニカマ型よりも防御力が低かった。

 しかしそれは、やはりより加速さえできれば、シューズの攻撃がカニカマ達に通る事を、より実感としてシューズに届けた。


 だが、これ以上の加速には時間がかかり過ぎる。

 方向転換の際にに微妙失われていく速度さえ、シューズには惜しかった。

 なんとかならないかとシューズは考え、思いついた。


 足に巻き付く靴紐のうち、何本かを伸ばし、ダンジョン内の地面にある岩に引っ掛ける。

 思いつきで試したシューズのその試みは、最初、思った通りに上手くは行かなかった。

 しかし、すぐに失敗で崩れた体勢を治し、再びカニカマ達に攻撃を仕掛けていく。


 攻撃中に何度か隙を見つけては、思いつきを試していき、それは、ようやく成功した。

 足のみでなく、体勢を崩さない為に身体中に結びつけた靴紐。

 シューズはそれを全身から伸ばして、ダンジョンの凹凸に引っ掛ける。

 直線的に加速しているシューズの身体が、引っかかった凹凸を支点に、直線運動を回転運動に変換し、方向を無理矢理変える。

 狙った角度に来た時に、靴紐の引っ掛かりを能力で操って外す。

 すると、100%完全にとは行かないが、速度をかなり保ったまま、方向を変える事ができた。


 思いついたばかりの技で、完成度はまだまだだった。

 しかし、できなければロレムを助けられないという状況。できなければ終わるという緊迫感が、シューズの集中力を飛躍的に上げて、ドンドンと練度が上がって行った。

 その靴紐を利用した円運動により、カニカマ達に有効な攻撃力となるまでのシューズの加速にかかる時間は飛躍的に短くなり、一つ、二つと、徐々にカニカマ達への切り傷は増えて行った。


 そして——


 ドサリと、カニカマ型のうちの一体のハサミがついた腕が切り落とされた。

 シューズの加速が、カニカマ達の命を削れる速度まで成長した瞬間だった。


 が、カニカマ達もただ刻まれるのを待つ案山子ではなかった。

 円運動による方向転換、それには、弱点があった。

 一つ目に、方向転換の完了までに少し時間がかかる事、二つ目に、回る軌道が読みやすい事だ。


 シューズの速度は途轍もなく速い。

 しかし、円運動中の軌道上に攻撃を置くように放てば、攻撃が当たる。

 それを狙われた。


 間一髪だった。

 カメレオンタイプの怪物が、地面色に擬態しつつ円運動軌道上に攻撃をしていることにシューズはギリギリで気づき、瞬時に引っ掛かった靴紐を短くし、円運動の軌道を変えることで、それを避けた。


 急激な軌道の変化、それはシューズの身体に大きな負荷となってかかったが、それ以上の驚きがシューズにはあった。

 体勢を治し、カニカマ達への牽制攻撃を再開しつつ、シューズは思案する。


 今、円運動の半径を短くした瞬間、加速しなかったか?

 最初は疑念だった。

 円運動に合わせて攻撃をされた事で、シューズは学び、方向転換を円運動のみに頼らずに、旧来の方向転換方法と織り交ぜながら走るようにした。


 その中で、先程の気づきを何度か確かめる。


 そして、やはり円運動中の回転半径を短くすると、シューズの回転速度が上がっている事を体感的に実感した。


 角運動量保存則。

 フィギュアスケート選手が、スピン中に伸ばしていた足を畳むことで高速スピンをするように、回転運動をしている物体の質量が変わらないのなら、その回転速度は運動の回転半径が変われば、増減する。

 理屈を知っていたわけではないが、シューズはそれを体感として学んだ。


「は、ははっ!」


 その発見に、死にかけのシューズは思わず笑いを零した。

 笑うようなタイミングではない。しかし、まだまだ自分が早くなれる可能性を見つけた事は、シューズに歓喜を与えた。これで間に合うかもしれない。

 もはやそれは狂気の域であった。


 シューズの発見した角運動量保存則による加速。

 それには相当の負荷がかかった。

 そもそも、直線運動を無理矢理円運動に変える時点ですら負荷が大きいのだ。

 それをさらに回転半径を縮めて加速しながら射出されるなんて事をやれば、対象となった物体がボロボロになっていくのは当たり前だ。

 だがしかし、死を覚悟しきって走るシューズにとっては、自身の痛みや傷など、動けなくならない限りは、もはや、ないも同然の扱いだった。


 戦闘は、また加速した。


 カニカマ達への斬撃が、ドンドン刻まれていく。

 腕や足、首が切り落とされ、とうとう戦闘不能になる怪物も現れ始める。

 しかしシューズも無傷ではない。

 高速移動の為の負荷はシューズの身体をドンドン痛めつけるし、カニカマ達の反撃を全く受けないわけではない。

 傷だらけ。瀕死。満身創痍。

 それでもシューズは立って、走り続けた。


 そして、怪物達のうち動けるのがカニカマ2体のみになった時、その結末は訪れた。


 終わりを迎えたのは、曲剣だ。

 シューズの操る曲剣が、根本からポッキリと折れたのだ。

 それはむしろ、よく持った方だった。

 曲剣は、トートが持っていた比較的品質の良い剣で、シューズの領域(テリトリー)による性能と耐久性の強化もされていたはずだった。

 しかし、硬いカニカマ達の外骨格に、全体重を乗せるような斬撃を何度も浴びせていたのだ。

 折れてしまうのは必然と言えた。


 カニカマに今まで唯一、有効な攻撃を与えていた武器。

 それの喪失は、戦いを諦めるのに充分な出来事であった。

 が、それで諦められるシューズだったのであれば、ここまで戦ってはいない。


 剣がない。

 ならば、蹴りで殺せる速度まで加速すればいいだけだ。


 カニカマ達の数が減ったおかげで、加速や方向転換のタイミングは格段に増えた。

 それを利用して、カニカマ達への牽制を重ねながら、シューズは走って、回って、ドンドンと加速していく。

 そしてシューズはとうとう、空気が壁となって圧力をかけてくるほどの速度まで加速、カニカマの1匹の顔面を蹴り抜いた。


 大型の砲弾で撃ち抜かれたかのように、カニカマの顔面は爆散する。


 が、シューズもタダでは済んでいなかった。

 生身で出していい速さでないその速度はシューズを切り裂き痛め、カニカマにぶつかった衝撃も、全身に響き、身体中の骨を砕いた。

 砕け飛び散ったカニカマの外骨格も、炸裂弾のように砕けてシューズに突き刺さっている。


 だけどシューズは立っていた。

 身体のダメージを当たり前のように靴紐でグルグル巻きにする事でカバーして、最早止血しようもなく全身から流れる血を意にも介さず、残る敵を見据える。


「あと、二匹……」


 そして、駆除対象の害虫を数えるように、フーコと残ったカニカマを見ながらシューズはそう呟いた。

 その声に、フーコは全身に鳥肌が立つほどの恐怖を覚えた。

 放っておいても死にそうなほど傷ついた男。

 しかしその男をここで殺さなければ、地獄の果てまで追い付かれて、自分を殺しにくる。

 そんな恐怖を、シューズの狂気に感じてしまった。


「もう無理! もういらないです! キモいキモいキモいキモい! こんなのにくっ付いてたパーツなんてもう要らない!」


 そうヒステリックに叫ぶと、フーコは自身の拠点(ベース)である壺を地面に置いた。


第二階層(セカンド)、解放!」


 フーコのダンジョン能力は、自己強化や戦闘での利用はほとんどできない。

 他の生物を掛け合わせて、より強い下僕を作る事に特化したダンジョン能力となっている。


 能力者のダンジョン能力への理解が深まり、強化された能力として発現する『第二階層(セカンド)』の解放。

 フーコがそれを行うと、通常時間のかかる生物同士の掛け合わせが、死体との掛け合わせも可能となり、かつ即時の掛け合わせが可能になる。


 壺が地面に同化するように埋まっていき、その出し入れ口である丸い縁だけが地面から見えている状態になった。

 縁の内側は暗く黒く染まった謎の空間で満たされた穴のようになっており、視認できない。

 その丸い縁が徐々に広がり、地面の上に落ちているカニカマ達の死骸や肉片を飲み込んでいく。

 黒い穴が数メートルの大きさまで広がり、全ての死骸を飲み込んだ後、生き残っていたカニカマが、自ら暗い空間の中に潜っていく。


 シューズはその様子を、ロレムを避難させながら確認していた。

 フーコのダンジョン能力の詳細を知らなかったから警戒しているというのもある。

 しかしそれ以上に、シューズの頭を支配している考えがあった。


 生き残りのカニカマが完全に闇の中に沈んだあと、トプンと、暗闇が円の中心から波紋を広げるように波打った。

 それは一度では終わらず、何度も、トプン、トプンとリズムよく波打つ。

 それは心臓の鼓動のように脈打ち、段々早くなり、最期に、強く大きな波紋をドプリと作ると、脈動は止まった。


 その外骨格は、赫かった。

 刺々しく、殺意の高いシルエットのそれが、巨大ロボットアニメのロボット登場シーンのように、頭頂部からゆっくりと穴から浮き上がってくる。

 4,5メートルあったカニカマよりその人型の怪物はさらに大きく、10メートル以上のサイズがあるように見えた。


 バスが立ち上がったくらいの巨体。

 それには太い六本の腕が生えていた。

 それぞれの腕に鎌やハサミ、触手を生やし、背中には2対の細長い、昆虫独特の透明な羽が生えている。

 その見た目だけで、まるで、私は虐殺を行いますと書いてある名刺を配ってまわっているかのような、殺意の情報量がそこには存在した。


「支配力が勿体無くてやりたくなかったですけど、もういらないから構いません!

 さあ、私の可愛いペットちゃん、アレを捻り潰して!」


 言われた巨大な赫い怪物が動き始め、

 言った。


「まマ、アリがToう」


 それは、虫の鳴き声を無理矢理人の喋り声に合成したかのような、ひどく聞きにくい声だった。


「…………え? 私は喋れるようになんか作ってな——」


「あリgAトぅ。BOクをツよくTuヨく合ワせテくれte。

 でモもウ、MAMaハ要ラなi」


 切断されていた。

 フーコの上半身と下半身が、切断されて分たれていた。


 切ったという認識をする時間がなかった。

 切られたフーコという結果からしか、その怪物が斬ったのだという認識ができない速度。

 巨大になったからノロいなんて優しさがない現実が、そこにはあった。


 それは、合わされた怪物が、フーコのダンジョン能力による制御を超えてしまったから起こった事故だった。

 いいや、実のところ、ずっと前からフーコのペット達はフーコの制御を超えていた。

 しかし、それでは足りないと待っていたのだ。

 フーコの能力の限界まで、真に最強の生物として組み合わせて貰えるチャンスを、ずっとずっと待っていたのだ。


「Gャハはhァはハハ……!」


 下手くそな笑い方で、赫い怪物が笑う。笑い続ける。

 しかしその狂笑は、唐突に飽きたかのようにピタリと止まった。


「オ腹Sぅいタ。あtO、敵ヲKOロシとカNァIト」


 赫い怪物がシューズ達の方を向いた。


 その様子を、シューズはじっと見ていた。

 しかし、その狂乱劇を見たシューズの感想は、殺す相手が二匹から一匹に減ったなというくらいの感想でしかなかった。

 シューズには目の前の狂乱以上に、考えるべき事があった。

 死にかけて、停止寸前の脳みその思考回路を割くべき事柄が別にあった。


 空気に、壁があった。

 自分には、足さえつけばそこを走れる能力がある。

 空気には、壁があった。

 自分は壁を、いつも当たり前に走っている。

 空気は、壁になれた。

 壁は道と同義だ。

 空気にも、道はある。

 そうか、俺は空も走れるのか。



 シューズにその知識はなかった。

 トートから聞いたわけでも、噂にすらも聞いたことはなかった。

 フーコが目の前でやったそれも、何をやったのか全く理解していなかった。


 しかしシューズは、自分がそれを言わないといけない気がした。




「『第二階層(セカンド)』、解放」




 シューズのダンジョンが、急速に深まった。

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