第16話 見送り
カニカマ達による街襲撃は、死傷者数名、家屋崩壊など多数の被害はあったが、壊滅的と言えるほどの規模にはならずに終わった。
主戦力である大型で人型の個体を暴れ回らせずに早期に倒せたことと、シューズを探して駆け回っていたトートが、ついでに大量のカニカマ幼体と見られる虫生物を狩りまくったというのも、被害が大きくなり過ぎなかった理由の一つだろう。
ちなみにカニカマ討伐後しばらくして、シューズとトートは合流できた。
その時、シューズはトートから、その日二回目の土下座謝罪を経験した。
号泣しながら魔道具渡し間違いの件を土下座謝罪をするトート。
それを見てシューズは、本当にこの人は基本的にすごくいい人なんだけど、直情的かつ苛烈過ぎて、面倒くさい人だよなと心の中で思った。
そして、カニカマ騒動から三日後。
「じゃあ、行きますか!!」
トート、シューズ、ロレムの三人は、街を出ようとしていた。
「……やっぱり、フレラータの奴に挨拶できずに行くのは、ちょっと心残りですね」
思う所がある表情で、シューズがそう言った。
フレラータはかなりの重傷で、まだ目覚めていなかった。
致命的なほどに傷だらけな状態で放った最後の一撃も良くなかったらしく、一時は命の危機すらあったらしいが、今は峠は超えて治療院で眠っている。
「まあ、それは僕も思いますけど、仕方ないですよ! これ以上遅れてしまうと、今回のバンガードの採用試験には間に合わなくなりますし!
ちゃんと伝言は残してありますし、試験が終わってから話をしに帰ってくることもできます!」
「まあ、そうですね。結果はどうあれ、フレラータには試験の後にでも会いにくることにします」
シューズは、結局バンガードを目指すことにしていた。
決めた理由はトートに言われたからというのはもちろん大きい。だが、それ以上に、
「なあロレム、本当に良かったのか? 院で友達も出来てただろ? 無理に俺について来なくてもいいんだぞ?」
「ううん、僕は、シューズおじちゃんと一緒に行く!」
「そうか、ありがとな……!」
孤児院を出て、自分を慕って着いてきてくれるというロレムの為に、多くの選択肢が選べる様にしてやりたいという思いがあった。
「ぐすん、ほんまにええ子やぁ……! それでは、お二人の輝かしい未来に向けて、しゅっぱぁーつ、しんこぉおーっ!!」
「おーっ!!」
トートの手を突き上げての掛け声と、それに合わせてノリ良く手を突き上げて掛け声を出すロレムに思わずニヤけながら、シューズは、トート、ロレムの二人と共に、街を離れた。
三人が出発してから数十分後、街の探索斡旋所のドアベルがけたたましく鳴った。
入ってきたのはスキンヘッドの大男、フレラータだ。
「シューズの野郎はいるかっ!?」
たまたま居合わせた、フレラータとシューズ、どちらとも顔見知りである探索者が気づいて、それに応える。
「シューズなら、さっき出てくのを見たぞ。それよりフレラータ。お前、大丈夫か? 包帯だらけじゃねえか。動いていいやつかそれ」
「クソッ! 遅かった! 今回のバンガード採用試験の街がどこか知ってるか!? すぐ追いかけねぇと!!」
「確か、アッチーノの街……いやいや待て待て、お前それ、よく見たら治療院の入院患者が着るやつじゃねぇか! 抜け出してきたんだろ! さっさと帰って寝とけ!」
「俺はシューズの野郎に言わなきゃいけねぇ事があるんだ!」
「そんな身体で何を言いに行くつもりだ。相手に心配かけるだけだろ? なに、そのうち戻ってくるって言ってたから、その時でも……」
「まだ終わってねぇかもしれねぇんだ!!!!!」
「……終わってねぇって、何がだ?」
「こないだの虫騒ぎだ! なんか変だったろうがアレ!」
「へ、変って何がだよ」
「なんで、同じ時期に生まれたはずの幼体の身体のサイズがあんなにバラバラだったんだ?
ハサミや鎌の形だって、同じ種族にしてはなんだか違う形や種類じゃないのかって感じがしてた。
それにだ、アイツらは何が目的だったんだ? 街を襲ったが食糧やら人を喰ってたか?
俺は噛みつかれたりはしてないし、治療院に喰われかけてた奴の姿は見なかったぞ!」
「か、考え過ぎじゃねぇか?
たまたまそういうよくわからん生態の生き物ってだけで……
それに、食う事が目的じゃねぇとしたら、何が目的だってんだよ」
「わからねぇ」
「わからねぇって……」
「だけどわかることもある」
「なんだ?」
「俺の勘が、俺をソロで生き延びさせてくれてきた勘が、何かヤベェってずっと言ってるんだよ!
クソッ! やっぱりほっとけねぇ! アッチーノの街は赤門の方だったな!」
そう言ってフレラータは、即座にドアベルを鳴らして外に飛び出していく。
「おい待てフレラータ! お前本気でその状態と格好で行く気か! いや待て! 待てって! 仕方ねぇから俺も仲間連れて行ってやるから! おいっ! 待てって言ってんだろうが、この野郎…………っ!」
居合わせた探索者が、それを追ってドアベルを鳴らし、探索斡旋所には、静寂が訪れた。
そして、そのフレラータが探索斡旋所にて騒ぎを起こしていたその時と同じ時間、シューズ達三人の前では、3体のカニカマが道の行く手を塞いでいた。