第15話 決戦
ブザーを鳴らし、トートの到着を待ちつつも、シューズは懸命に戦っていた。
間合いをずらし、緩急をつけて、最速から急停止、鎌やハサミも足場にして、曲芸のように、職人技のように、持てる全ての技を持って、カニカマの攻撃を避けて避けて避けて避けて避けまくって、そして、何度も蹴り付け、切り付け、攻撃を加えた。
しかし、攻撃の全てはカニカマの外骨格に阻まれて、かすり傷さえつけられていない。
関節部分が弱いかと攻撃を当てたりはしているが、そもそも威力のある攻撃は最近練習し始めたくらいの練度であるし、狙いすぎると今度はカニカマの攻撃を避けるのが疎かになりかねない。
それでも、シューズは頑なに攻め続けた。
後ろでは、フレラータが倒れている。ロレムもいる。
逃げる選択肢はなかった。
逃げずに食い止める。仇を討ち取る。
その思いが、シューズの一歩一歩を支えていた。
汗が溢れる。息が上がる。
目の前のカニカマの限界は見えない。
当たれば命が奪われるだろう一撃が、何度何度も、ギリギリを通り過ぎる。
避けのパターンを覚えられないように、自分の逃げ場をなくさないように、頭の中で様々な計算を繰り広げながら、ヒット&アウェーを繰り返していく。
それは、ただ逃げるだけの行為よりも大きく体力を削り、シューズの足を重くしていった。
数分だろうか、数十分だろうか、時間の感覚がなくなっているシューズにはわからないだけの時間が過ぎて、それは訪れた。
避け続けていたカニカマのハサミがカスるようにシューズに引っかかる。
カスっただけなのに、その重みはシューズに傷を与え、弾き飛ばす。
いや、飛んで攻撃の重みを逃さなければ、より大きな怪我になっていただろう。
キチンと着地し、体勢と息を瞬間で整えて、シューズはカニカマを見据える。
動けない傷じゃない。まだ戦える。
……だが、カニカマに疲れがあるのか、体力を削れているのかはわからない。
このままだと絶対に終わりが来る。
「フレラータッ!」
「言わなくていいっ! わかってる!」
血だらけのフレラータが、シューズが名前を呼んだだけで、ハンマーを杖にするように立ち上がるのが見えた。
トートが来るまでの時間を一緒に稼いでくれと頼もうとしたシューズは、その友の姿に再び奮い立つ。
あと何時間でもやってやる!
そんな思いと共に、再びカニカマにヒット&アウェーを仕掛けていく。
体力を保つために、よりギリギリを攻めながら、シューズは走る。
「いいぞシューズ! 来い!!」
フレラータからの掛け声、何のことか分からずシューズが振り返ると、フレラータがシューズに向けて、かなり大きくしたハンマーを振り上げていた。
「乗れええええええええええええぇぇえぇぇぇっっっ!!!」
わけがわからなかったが、フレラータの気迫に押され、シューズは言われるままにハンマーを地面にして飛び乗る。
「 ぶ 」
フレラータがシューズごとハンマーを持ち上げ、
「 ち 」
グルリと、
「 か 」
グルグルと、
「 ま 」
シューズごとハンマーを振り回し、
「 せえええええええええぇぇえええええぇええええぇぇぇぇぇぇっっっっっ!!!!!!!! 」
全身の傷口から血を噴きながら、カニカマに向かって、ぶん投げた。
シューズは、ハンマーごと投げられながら、あまりの状況に混乱しそうになりながらも、フレラータがやりたいことを理解してしまった。
あの筋肉バカは、普通の攻撃が効かないなら、パワー×パワーのゴリゴリの合体技でぶち抜けばいいだけだと考えたんだと。
自分の名前を呼ばれた理由はそれだと早とちりしたと。
アホだと思った。
やった事も考えたことすらもない合体攻撃。
思いついても実際やることじゃないし、仲間ごとハンマーを投げてしまう力技も、あまりに馬鹿すぎる。
だけどそれがフレラータらしすぎて、思わずニヤけてしまう。
瞬間の出来事だった。
失敗したら終わりの技だった。
しかしシューズは、
友から受け取ったその技を、
ハンマーを蹴り飛んで全ての物理エネルギーを受け取り、
さらに自分の踏み込みのパワーも上乗せして、
自身の身体をカニカマに足を向けて一直線の矢のように伸ばし、
足裏の曲剣に全体重を乗せて、
友の思いと共に、カニカマに突っ込んだ。
胸部の外骨格のど真ん中にぶち当たったその攻撃は、
その日初めて、カニカマの外骨格を突き破り、曲剣は深々と根元まで突き刺さる。
それでも勢いが止まらずに、カニカマの身体ごと吹き飛ばす。
シューズも、自身についた勢いを止めきれずに、着地も失敗して、ゴロゴロと転がってしまう。
勢いが死に、ようやく止まった自身の身体の痛みよりも先に、吹き飛んだカニカマをシューズは確認する。
カニカマは仰向けに倒れ、身じろぎもせずに完全に絶命していた。
その姿に、シューズは涙を流す。
みんなっ、仇はとったぞ!!
心の中でそう叫びながら、シューズは涙を流し続けた。