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第13話 襲撃


 時は少し遡って、ロレムがフレラータに土下座をされていた頃。

 シューズも、探索斡旋所にて、とある人物に土下座されていた。


「本当にごめ゛ん゛な゛ざい! 稼ぎの少なくて世間知らずな独身男の気まぐれで、孤児達の関係を引っ掻き回されたら困るって、あたし、余計なお世話と早とちりを……。

 一度言ったら孤児院に来るのは控えてくれた上に、あんなにも多額の寄付をしてくれている時点で謝るべきだったのに、変な意地を出しちゃって……。

 ロレム君に、昔、貴方も孤児だったという話とか色々聞いて、あたし、なんて酷い事を言ったんだろうって後悔が止まらなくて……ずびぃーっ」


 涙をボロボロと流し、鼻水をダラダラ出しながら、その女性、シューズに来る事を控えるように言った孤児院の職員は、土下座していた。


「い、いや、俺も間違った事を言われたとは思ってませんし、貴女の気持ちも全然わかりますんで、本当に顔を上げてください!」


「いいえ! いいえ! あの時だって、もっとやりようは色々あったはずなんです!

 場所と時間を先に決めておくとか、探索斡旋所の方に根回しして、仕事として来てる人のフリをするとか!

 でも、あの時のあたしは、貴方を可哀想な子供の面倒を見る自分に悦に浸る偽善者だと決めつけて!

 一時だけ掻き回して最後まで責任を負う気のない善意のロクでなしだと決めつけて!

 ううっ、あの時のあたしを、それはお前だって手鏡で殴りつけてやりたいぃぃっ!」


 そう言って女性は地面をバンバンと叩く。


「お、落ち着いてください。結果論であって、あの時点の対応に正解なんてない事柄ですし、俺も、気にしてませんから……」


「うぅっ、こんなに心根の綺麗な方を……あたしは、なんて偏見で……」


「い、いや、俺はそもそも探索者で、急に死ぬかもわからない人間なんで、職員さんのような方が見てくれる方が……」


「だから! だからじゃないですか! だからこそ、大切な人と会える時間をちゃんと確保しなきゃダメなのに!

 あたしはそれを! よく考えもせずに! ロレム君の話も聞かずに奪って!! ううぅっ!」


「あっ、すいません! 一瞬だけ! 一瞬だけシューズさん借りますね!?」


 隣で見ていたトートが、埒が開かないと思ったのか、間に入ってシューズを連れ出す。

 職員に声が聞こえないだろう所までシューズを連れてくると、トートは小声で言った。


「いやー、あの方、たぶんすごくいい人なんでしょうけど、直情的かつ苛烈過ぎて、面倒臭い方ですね……!」


「…………えっ?」


 お前がそれをいうのかと、思わずシューズは驚いてしまう。


「ん!? なんですか!?」


「あ、いや! な、なんでもないですよ?」


「違います! なんか、変な感じがしませんか!? 空気が張り詰めてるというか……!」


 トートがそういうと、探索斡旋所のドアベルがけたたましく鳴った。


「ヤベェぞッ!! 街に大量の虫が……ッ!!」


 所々に傷を負った探索者が斡旋所に入ってくる。

 聞いた瞬間、シューズとトートは外へ出た。


 二人の目線の先には、無数の、カマとハサミを持った虫型の生物が街を襲っている姿があった。

 破砕音、叫び声、泣き声、そして、そこら中から聞こえる羽音。

 調理で使っていた火などが移ったのか、所々煙も出ていて、火の手も上がっていそうだ。


「シューズさん!」


 トートが、どこかから出したトートバッグから、片刃の曲剣を取り出して、シューズに投げる。

 抜き身のそれを、シューズは空中で受け止めるように靴に吸い付ける。

 靴底部分で曲剣をクルリと滑り回らせながら、シューズは剣の位置を整え、そのまま蹴りを放つ。


 接近してきていた40cmほどの虫生物が、両断される。


「いい技の完成度ですね! じゃあ僕も!!」


 トートは、自身の拠点(ベース)であるトートバッグの片紐を持ち、中身をぶち撒ける様に、雑に振り回す。

 するとバッグの口から、大量の槍や剣が飛び出した。

 飛び出した大量の武器は、それぞれ虫を串刺し、串刺し、串刺した。


「さて! カニカマの幼体ですかね? 生態調査用に回収もしとかないとですね〜!」


 トートはそう言いながら、串刺しになった虫たちを、武器と一緒にトートバッグに詰めていく。

 明らかに容量を超えた体積が、当たり前の様に飲み込まれていく。

 トートバッグがトートのダンジョン能力の拠点(ベース)なのだ。


 呑気に回収していくトートに、生き残った虫たちが襲いかかって行く。

 それをトートは、目線すら向けずにトートバッグで打ち落とす。回収も続けながらだ。

 それは、行動しながらでも周囲の状況を自身の領域(テリトリー)で観測しているからできる芸当だ。領域(テリトリー)による感知が苦手なシューズにはできない。


 武器と虫をある程度集めると、トートはまたトートバッグを振り回す。

 すると、虫がなくなった武器のみがまた飛び出して、虫の串刺しを量産して行く。


 それを横目で確認しながら、シューズも虫を次々と切り裂いて行く。

 数が多い。気を抜くと囲まれそうな数の虫たちだ。

 だが、成長したシューズを囲むには、遅すぎた。

 切り裂き、蹴飛ばし、たまに空中に進む為の道にしながら、虫を減らして行く。


 数十秒間、そんな殲滅戦を続けた後、それはシューズの視界の端、上空から来た。


 一際、大きな羽音。


 空中、普通なら避けられない。

 命を刈り取りに来た、その速度と重量の斬撃を、足に吸い付けていた曲剣を足場として支配して蹴り飛ぶ事で、シューズはかわした。


「おっ! お出ましですね! コイツがシューズさん達を襲ったカニカマですか!!」


 大きさは4〜5メートル、左手にカマ、右手にハサミ……人型の、見忘れもしないシューズの仇敵がそこにいた。


 上空から回転しながら落ちてきた曲剣、先程、シューズが足場にしたそれを、シューズは靴で受け止めながら、答える。


「そうですね。……コイツが、仲間の仇で間違いありません」


 仇敵に遭遇したシューズの心に湧いた感情は、煮えたぎる様な怒りだった。

 ちゃんと戦えるだろうか、恐怖で足が動かなくなるのではないかと、シューズは少し懸念していたのだが、杞憂だった。

 仲間を殺して、今も、おそらく幼体の集団を連れてシューズの住む街を喰い荒らそうとしている簒奪者。

 許せるわけがなかった。


「シューズさん! コイツの相手は僕一人でやらせてもらっていいですか!?」


「え?」


 共に戦えと言ってくれると信じていたトートの言葉に、シューズは困惑した。


「なんでですか! 俺はちゃんと戦えるように鍛えました! 俺も一緒に戦わせてください!」


 危険だからと仇討ちを止められたと思い、シューズはトートに食ってかかる。


「シューズさん違いますよ! シューズさんには、別にやって欲しいことがあるんです!」


「……やって欲しいこと? なんですか?」


 戦闘以外の手伝い要員でもやらされるのかと、シューズは落胆しかけていた。


「シューズさん、このデカさのカニカマは1匹だと思いますか!?」


「……え?」


「成長前のシューズさんでは、コイツは逃げ切れませんか!? 仲間を逃さず殺すのと、シューズさんを同時にこなせるくらいの強さの相手に見えますか!?」


 そう言われて改めてシューズは考える。

 カニカマの速度。

 確かにカニカマはかなり早い。

 しかし、シューズが何時間かけても逃げ切れなかったほどの早さなのか?

 不意打ちではなく、真正面から仲間を全てを相手取った後に、すぐにシューズを追ってこれるだけの早さなのか?


「カニカマが、2体いた?」


「まあ、単性生殖でもない限り、基本は夫婦揃って親ですよね! おそらく、挟み撃ちにするつもりが早すぎて、先回りしながら追いかけるのが精一杯だったんじゃないでしょうか!?」


 先程シューズを切りつけたカニカマは、戦闘態勢で動きを止めてこちらの様子を伺っていた。

 会話を待っているわけではない。

 トートから発せられている強者の圧力。おそらくそれがカニカマの動きを止めている。

 カニカマは警戒するような音をギチギチ鳴らしながら、こちらの出方を待っている。


「これ、渡しときます!」


 トートが投げてよこしたそれを、シューズはパシリと受け止める。


「通信ブザーです! ここに2体とも来たら鳴らします! シューズさんも、もう一体を見つけたらボタンを押して、僕のブザーを鳴らしてください! 倒し終わったら駆けつけます!」


「見つけた場合、俺一人でカニカマを止める必要がありますか?」


「僕はシューズさんを信じます! ロレム君の安否も心配でしょう!? 行ってください!」


 シューズは、一瞬だけ考えた後、カニカマに背を向けて、走り出した。

 シューズ一人で一体のカニカマを止める自信はあまりなかったが、信じると言われて、動けないシューズでもなかった。


 街を襲う虫たちを曲剣で切り裂きながら、シューズは走って行く。

 その背中を領域(テリトリー)で感じながら、トートは言った。


「さて、今日は僕も本気でやりますかね!」


 トートの糸目が見開かれる。

 青い瞳が輝く。


「『第二階層(セカンド)』解放!!」


 ダンジョン能力者の拠点(ベース)が変わることは無い。

 しかし、実力のある能力者の拠点(ベース)が、深まる事はある。


 トートのトートバッグから、鈍く青い光を放つ小さなトートバッグが飛び出した。

 小さなバッグは、トートの周りを、まるで生きているかのようにクルクルと飛び回る。


「行きます!」


 トートの戦闘が始まった。

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