Episode:御神望<ミカミ ノゾミ>(千里眼)
私は御神望45歳女独身、病弱で薄い人生を送っている。会社を休みがちな私は、今回のリストラの対象となり早期退職の勧めを受け、退社することとなった。
仕事はパソコン入力中心の一般職だった。
休みがちな私は、責任のある仕事は任されず、雑用担当としてかろうじて今まで過ごしてきたが、会社もいよいよ使えない私をクビにしたかったのだろう。
そして会社を出て病院へと向かう途中・・私は下を向いて小さくつぶやいた
「はぁっ、ちくしょう」・・
その時”パチン”とスイッチの入る音が頭の中でした、同時に私の目の前が、心臓の鼓動に合わせるように景色が大きく見えたり、遠くに見えたりを繰り返し、激しいめまいとなって襲いかかり、その場にしゃがみこんでしまった。
この時、激しいめまいと同時に子供のころの記憶も封印が解けるように蘇ってきた。
私が小学校入学の日に倒れ、依頼9歳まで、病院で入院生活を送っていた時のことだった。
病院のベッドを起こし窓の外を見ている9歳の私に、母は「望ちゃん今日は何してた?」と普段通りの会話をはじめた。
私は母に「窓の外を見てた、こっちのずぅーっと遠くに小学校があるの、3階の教室にいる男の子、いつも居眠りしているの」笑いながら告げると、同じ方を眺めながら
「なにいってるの・・この先は海でしょう」と母も笑いながら返した。
私は母には聞こえない声で「そのもっと先だよ」とつぶやいた。
そんなやり取り中、病室に入ってきた看護婦に母は笑いながらはなした。
「この子はこっちの方向に小学校があるって言うんですよ、変な子」
長くこの病院に勤める看護婦は、私に向かって「ここは湾になっているから、ずっと先の対岸の学校が見えることになるわよ望ちゃん。望ちゃんは目がいいのね、ハッハッ・・・」とおどけた表情を見せながら笑って言った。
この日を境に望は遠くを見ることをやめ、本の虫になった。