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薄命戦記  作者: やばくない奴
叛逆
32/48

通信

 一方、翔太(しょうた)は敵機の軍勢に苦戦していた。彼の放ったミサイルはことごとくレーザー光線で撃ち落とされ、結局は三機程度の機龍兵しか沈められなかった。かつてない危機を迎えた彼のもとに、一通の連絡が入る。

「こちら蟒蛇正和(うわばみまさかず)。君に最後の任務を託したい。どうぞ」

 通信機越しに、本来なら彼がよく聞き慣れているはずの声がした。その声はいつもと違い、荒い吐息の混ざった掠れた声だった。

「こちら杠葉翔太(ゆずりはしょうた)。最後の任務とは? どうぞ」

「スカイネストがオウマガトキに敗れた。私の命も長くはもたないだろう。どうか、羽生架神を止めて欲しい。どうぞ」

「了解」

 何やらスカイネストは、架神(かがみ)の放った荷電粒子砲によって大破したようだ。そして命の危機を前にしても、正和は依然として冷静だった。彼は最後の力を振り絞り、本心を語り始める。

「杠葉翔太……私は間違っていたのだろう。もちろん、今更許してもらおうとも考えてはいない。だが、数々の仕打ちを謝らせてくれたまえ」

「大佐……」

「すまなかった。我々はもう、戦争を繰り返してはいけない。ICなど、生み出してはいけなかったのだ」

 すぐ目の前に迫る死をもってして、彼はようやく己の過ちに気づいたようだ。無論、それで彼を許すほど、翔太は甘くはない。

「大佐が死んだって、なんの解決にもならない。生きて、全てを償うんだ!」

「命を拾われるのならそうしたいところだよ。だが君も知っての通り、命とは儚いものだ。私は間違った人間のまま、何も清算せずに散っていく運命にあるのだろう」

「大佐!」

 曲がりなりにも、翔太は正和の生存を願っていた。今となっては、それも叶わぬ願いである。そして二人がそんな話をしている最中にも、機龍兵の群れは破壊の限りを尽くしている。翔太はイザヨイを乗り回し、戦いに尽力していく。そんな彼の勇姿を知ってのことか、正和はか細い声で語る。

「多くの命が散っていった……これは私の望んだ未来ではないが、私が選んでしまった未来なのだ。いや、私一人ではない。ICプロジェクトに関わった全ての人間が、おおよそ全世界が撒いた種と言えよう」

 ICプロジェクトがもたらした悲劇は、あまりにも無残なものであった。

「だけど今となっては、誰もその尻拭いを出来ない。ただ一人、僕が戦うしかない。そういうことだね?」

 翔太は訊ねた。正和の口から語られるのは、彼の予想した通りの答えだ。

「その通りだ……杠葉翔太。君を最後の最後まで戦いに巻き込んでしまったことを、今は本当に申し訳ないと思っている」

「僕が、全てを終わらせる。架神の復讐も、戦争も、ICたちにもたらされる悲劇も、全て! そして狼愛(ろあ)の愛した世界を、僕も愛せるようになるんだ!」

「高い志だな。だが宣言したからには、必ず成し遂げたまえ。私はもう、ここまでだ」

 それが二人の最後の会話だった。

「大佐? 大佐! 大佐ぁ!」

 翔太は叫んだ。しかし、正和からの応答はない。無論、翔太には彼の安否を確認している暇などない。否、わざわざその目で確認するまでもなく、答えは明白だ。架神は間違いなく、正和を殺した。翔太は数多のレーザー光線をかわしつつ、機龍兵の狙撃を試みていく。

「そうだ。大佐も、ICプロジェクトに携わった皆も、誰一人として、こんな結末を望んではいない。きっと、架神にだって迷いはあるはずだ!」

 この期に及んで、彼はまだ架神を変えられる可能性を信じていた。いずれにせよ、翔太はこの戦いを生き延びなければ、世界を救うことなどままならないだろう。

「もうこれ以上、誰の命も奪わせない!」

 彼がそう叫んだのも束の間、イザヨイの挙動が急変した。イザヨイは俊敏な動きで辺りを飛び回り、次々と機龍兵を撃墜していった。

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