金髪和服狐娘
「私はミリア。こっちは妹のシルヴァ」
「シルヴァだ。ありがとうな、助けてくれて」
「別に大したことではない。妾はタマラじゃ。よろし──」
名前を名乗り、視界の隅の方に腕を振り上げたドラゴンが見えた。
「え?」
いつの間にとか、やられてなかったのかとか、そんなことはどうでもいい。
とにかく逃げないと、逃げないとやば──、
「ん……!」
振り下ろされた手は、俺の眼前で止まった。
衝撃波が一帯を揺らす。
普通に死んだかと思ったが、どうやらミリアが守ってくれたよう。
「チッ、今日のところは帰ってやる。次見たら絶対殺すからな。……ふん」
そう言葉を残し、竜は飛び去っていった。
多少なりとも攻撃が効いていたということだろうか。
まあよかった、ビビって漏らさなくて。
「すまないのう。仕留め切れていなかったようじゃ」
「別に謝ることじゃない。向こうが逃げてくれたのは貴方のおかげ」
「俺なんて何もしてないしな」
竜がいなくなってよかった。これで平和に進んでいける。
……あれ、でもそういえばどこに向かってるんだろうか。
俺の要望で街とか人とかを目指して進んでるとはおもうんだが、ミリアは場所を知ってるんだろうか。
「じゃあ私たちは行く」
「そうか。達者でな」
「なあ、姉ちゃんは街の場所知ってるのか?」
気になったので聞いてみることにした。
迷ってる様子はないのだが、百年経てば色々変わってる可能性はあるだろう。
たまたま人に会えたのだから、この人がどこで暮らしてるのか聞いておいてもいいと思う。
てか聞きたい。ケモ耳愛好家としては、金髪狐獣人ともっとお喋りしておきたい。
「知らない」
「え? じゃあどこに向かってたんだ?」
「とりあえず山を下ってた」
ここ山なんだ。
それどころじゃなかったから全然気付かなかった。
「タマラさんは街……というか人里がどこにあるか知ってるか?」
どこ行けばいいかわからないのは問題だけど、話せる理由ができて良かったぜ。
「知らないのう。妾はここらで暮らしてるが故、そういったことは疎いのじゃ」
「ここ、ってなんだ……?」
「そうじゃ、寄っていくといい。さっきは守って貰ったしのう」
ここってどういうことだ? 野宿ってことなのか?
いや、この優雅な見た目でそれは流石にない……よな?
まあ何にしても寄りたい。話したいもん。
「いい? 姉ちゃん」
「どっちでもいい」
そんなわけで、タマラさんの家にお邪魔することになった。
道中三人で話してたんだが、その中で彼女がどういう人なのかが判明する。
典型的な狐獣人の見た目とは裏腹に、彼女自身はイメージと全然違った。
まず、元ニートである。半世紀は生きてるみたいなのだが、この間まで親に養われながら実家で暮らしていたらしい。
そんで働いたことはなく、今は暮らす家がないとのこと。
ニート時は家事を手伝うことで親に媚びていたみたいで、料理などはそれなりに出来ると言っていた。
この後、振舞ってくれるらしい。
妾〜とか、なのじゃ〜とか言っといてこの体たらく。
面白い人である。
「主らはどうなんじゃ?」
「私は実家で百年本読んでた」
「俺も働いたことはないし、家事もできないな」
しかしこうして言葉にしてみると俺たちも大概だった。
なんなら彼女より酷いかもしれない。
まともな日常生活からは程遠い。
社会不適合者の集まりみたいな面子だ。
「なんかあれじゃな……妾よりだめな奴を見ると、ちと心配になるのう。……ん、ここじゃ」
言われてそこを見れば、あったのは地面に敷かれた寝床と思わしき大きな葉、新しい薪、火を起こした跡、それと鍋とフライパン。
……野宿してるなぁ。