ドラゴン
「邪魔だ」
そう言って赤いドラゴンは、大きく息を吸い込む。
「初めて見た……」
ドラゴン……本物のドラゴンである。
感動した。けど結構怖い。
だって一戸建て二つ分くらいある。
ありえないじゃんこんな大きさ。
「あ、シル避け──」
突然、爆音とともに視界が真っ赤に染まった。
な、何が起こったんだ!?
驚いて尻餅をつけども、状況は飲み込めない。
「む、弱めすぎたか」
十秒ほどが経つと赤は晴れた。
相変わらず目の前にいるドラゴンと、気付かぬうちに俺の前にはミリアが立っていた。
「急に火吐くのは危ない。バリアしなきゃ妹が死んでた」
え、俺ら殺されかけたの?
「我の住処に入って来たのはお前らだろう」
「そんなの知らない」
躊躇なく殺そうとしてきた相手に、堂々と話してみせる彼女。
なかなか肝が座っている。
「まあお前に用はない。シル、こっち」
「お、おう」
そう言って竜の反対方向に歩き出したので、とりあえずそれに追従。
俺は呆然とするくらいには驚いたんだが、彼女にとっては大したことじゃないのか?
「だ、大丈夫なのか?」
「ん?」
「いや、あのドラゴン」
「勝手に騒いでるだけ。気にする必要な──」
風切り音が聞こえ、
「うっ!?」
世界が回る。
ミリアに手を掴まれ、思い切り引っ張られたようだ。
腕が痛い。
「何?」
「ムカついたからお前らは殺す」
彼女の問いにそう宣言するドラゴン。
見れば、今までいた場所は爪の形に抉られていた。
なんかまずい雰囲気だ。
ギュッと俺の腕を握る手に力が込められた。
「あの、ミリアさん……?」
「逃げる」
「死ね──!」
深紅の竜がブレスを放つ。
「おああああ!!?」
掠めた俺は絶叫をあげ、命懸けの鬼ごっこが始まった。
「シル、ちょっと我慢」
ミリアが俺を掴み宙を駆ける。
上下左右、縦横無尽に飛び回り、攻撃を避けつつ前へと進む。
凄まじい速度で変わる景色に、迫り来る恐らく受けたら即死の攻撃。
怖い。意識飛びそう。
「ちょこまかと……!」
いつの間にやら森に入っていたが、まあそんなことは関係ないようで、木々を破壊しながら竜はこちらを追いかけてくる。
大分怒っているみたい。気迫がすごい。
疲れる様子はないが、ミリアもそれは同じのようだ。
「あ」
そんな調子で逃げ続けること数分、彼女の口から不意に声が漏れた。
ずっとだんまりだったので何かあったのかと心配になり、
「人いる」
突如、ドラゴンが爆ぜた。
「え……!?」
あの巨体が地面へ墜落する。
ミリアは飛ぶ速度を落とし、地面へと着陸。腕が解放される。
よくわからない、よくわからないが、もしかすると俺は助かったのかもしれない。
「だ、大丈夫かお主ら」
涙を拭っていると、前方から知らない声が聞こえてきた。
「咄嗟に攻撃してしまったのじゃが、まさか主らのペットなどではあるまいな……?」
「違う。追いかけられてたから助かった」
「そうか。ならば良い」
そこにいたのは和服の女性。
「わ……」
しかもケモ耳、ケモ耳だ!
大人っぽいケモ耳の女性。
尻尾の形を見るに恐らく狐の獣人。
胸が高鳴り、さっきまでの恐怖は即座に吹き飛ぶ。
ありがとう異世界。
ケモ耳好きの俺としてはドラゴンなんかより全然嬉しいよ、生ケモ耳。