待ち侘びた外
駄々をこねた結果、外に出れることになった。
気づいてしまったのだが、お姉ちゃんではなく姉ちゃん呼びならあまり抵抗はないかもしれない。
まあこれからそう呼ぶようにしよう。
「……」
カーペットに腰を下ろし本を読むミリアを眺めつつ、俺は翼とか尻尾とかを弄って暇を潰す。
思い通りに動くので意外と楽しい。
「……行く?」
「行く!」
とりあえずは読み終わったらしい。
彼女は本をしまい、俺は羽を正して書斎を後にする。
「着いてきて」
朽ちた扉から王座の間を出ると、曲がりくねった通路やら中庭やらを通ってやっとのことで城前にある門まで辿り着いた。
城内に扉は無数にあり、何部屋あるかは見当もつかないほどだった。
よく勇者玉座まで行けたな。
しかも、もし侵入者が来た際には、道の複雑さに加えて城にかかった魔法によって惑わされたり気を狂わされたりするとのことで、だから廃墟と化していても中は安全と彼女は語っていた。
益々勇者すごい。
「外」
「わー……」
そして待望の外は、期待しているものとは違う荒れ果てた景色だった。
枯れた地面に不気味な暗くて赤い空。至る所が崖であり、人工物はこの魔王城を除いて他にない。
魔界だなぁ。
「街とかって……」
「そんなものない」
「人とかって……」
「いるのは理性のない魔物か頭のネジ溶けてる変態」
求めてたのと違う。
西洋の街並みとそこを歩く様々な種族の人々とか、人で溢れかえってガヤガヤ騒がしい酒場だとか、俺はそういうのが欲しいのだ。
「その、人がいる場所に行くにはどうしたらいいんだ?」
「この大陸をでないとだめ」
「大陸を出る……」
「魔界に街はない」
「魔界って今いる大陸のことなのか?」
「うん」
どうやら魔界というのは大陸の名前らしい。
別次元にあるとかいうわけではなく、人が暮らす大陸と海を跨いで繋がっているようだ。
この地獄のような光景をみると、なかなか信じ難い。
他大陸までどのくらいかかるんだろうか。
本当に同じ世界なら早く街並みを眺めてみたい。
「じゃあ大陸の外行こうぜ? 俺飛べるし」
さっき翼を触ってる時に飛ぶコツをつかんだのだが、実は書斎からここまで、宙をふわふわ漂って移動してきた。
これがなかなか楽しい。
今後歩くことはあまりないかもしれない。
「だめ。危ないし、時間をかけても海へ着くとは限らない」
高いところも飛んでみたかったのだが、OKを出してはくれなかった。
なんでも、場所によってはあまりにも濃密な魔力の影響で時空が歪んでいたりするとのことで、敵がいるというのも相まってどうしても安全に移動することは出来ないらしい。
「え、じゃあ行けないのか?」
「……実は魔王城に転送魔法陣がある。行きたい?」
行きたい!
「行きたい、姉ちゃん!」
「……しょうがないから行ってあげてもいい。私もちょっと外の本に興味ある」
というわけで城内に帰還。
中を進み玉座の間には帰らずとある部屋に入ると、床に魔法陣が描いてあった。
「中入って」
促されるまま魔法陣の上に乗る。
なんか文字やら図形がめちゃくちゃ書き殴られていて、正直カッコいい。厨二心をくすぐられるデザイン。
不意にミリアが何か呟くと、心の準備をする暇もなく魔法陣が輝き始めた。
眩い光が二人の体を包み込む。
「うわあ……!」
そして目を開ければ、野原が広がっていた。
緑があるし空も青い。
あの悲惨な景色を見た後だからか、めちゃくちゃ感動した。
吹き抜ける風も心地良い。
「懐かしい」
彼女の目もキラキラしている。
やっぱり外に出るのって大事だよね。
飛ぶのをやめて俺も地面に立ってみると、足の裏で感じる草の感触がなんだか気持ちいい。
とそんな感じで自然を味わっている最中、
「なんだお前ら」
突然、ドラゴンが現れた。