髪の毛
「シルヴァ……」
俺の予想通り、なかなか名乗るのは恥ずかしいような名前を貰ってしまった。
しかしどうしてか、しっくりときた。
なんというか胸にすとんと、ぴったり収まったような、脳裏に焼きついて離れないような、絶対に忘れないだろうなという感覚。
俺はシルヴァ・カレスティアだ。
「私はミリア・カレスティア。シルのお姉ちゃんだから、言うことは聞かないとだめ。わかった?」
「わ、わかった」
「ん、じゃあこっち来て」
呼ばれるがままに彼女の元へ向かうと、近くに座るよう促された。そこに腰を落ち着ける。
「結んであげる」
髪を結んでくれるらしい。
どっから出したか、どでかい鏡も置いてくれたので、自分の見た目も確認することができた。
控えめに言って美少女だった。
「聞きたいことがあるんだけど……」
「なに?」
結んでくれている間は、分からないことについて彼女に色々聞いてみた。
この場所のことだったり、体のことだったり、パパの魔力云々かんぬんだったり、沢山聞いた。
曰く、今いるのは魔王城で、パパ(魔王)が勇者と戦ったために廃墟と化した。俺はその死んだ魔王が残した魔力から生まれた悪魔で、悪魔族は角とか尻尾とか翼が生えてることが普通だから俺にも生えてる。ちなみに私は勇者に見逃された。とかなんとか。
まあよくわからないけど、そもそもとしてここは異世界らしい。
俄には信じ難いけれど話を聞く限り、剣と魔法のファンタジー世界っぽい。
部活帰りに自転車で事故って目が覚めたらここだったってことを鑑みても、その可能性は低くないとは思う。
「どう?」
「これも可愛いな」
鏡に映された、自分を見て恥ずかしげもなくそう言う。
だって可愛い。
なんかすごいめちゃくみゃ編み込んであって、自分では到底できそうもない髪型。もはや作品。
既に何種類かやってもらってるんだが、まだ続きそうである。
「ほんとにこれでいい?」
「うん、ありがとな」
「……む」
最終的に、ツインテールに落ち着いた。
シンプルだけど、これが一番可愛く見えたのだ。
自分でも割と簡単に出来そうなのもポイント高いかもしれない。
「あ、ありがとな……お姉ちゃん」
「ふふっ」
話していく中でわかったのは、お姉ちゃんと呼ばれたいらしいことだ。
正直小学校低学年くらいの子にお姉ちゃんと呼ぶのは、なんかのプレイみたいで気が引けるのだが、彼女の希望なのでしょうがないか。
あとわかったのは、勇者のことが嫌いということくらい。
争いたくないと言いつつ結局魔王倒してるし、それなのに私のことは逃してるから、中途半端で嫌いとのこと。
でも納得はしてるらしく、復讐するとかそんな気はないらしい。
割と大人だった。
「可愛いな、俺」
髪を結った後にくれた服を着て鏡を見る。
本で見た悪魔族のイメージから作った服とのことだったけれど、ほぼ裸みたいな服で全裸より恥ずかしいかもしれない。
けどやっぱり俺可愛い。
「なにそれ」
「楽しいぞ」
鏡を見ながらポージングをしていると、ミリアも気になったようで一緒にそのまま鏡で遊んだ。
こうして見ると、身長差がやばい。俺もそんなに大きくないのに、多分30センチくらい差がある。
でも彼女、百年は生きてるらしい。
異世界って怖い。