見知らぬ場所
「どこだここ」
風が吹き抜ける建物の残骸。その中心。
呟いた声は誰に届くわけもなく、何も成さずにどこかへ消えた。
「廃墟……?」
崩れた壁や剥がれた床、所々に崩れ落ちた瓦礫が見える。
しかし、ボロボロではあるがカーペットが敷いてあったり、古びれても威厳を感じる玉座があったりと、元は煌びやかな場所であっただろうことが窺えた。
まあここがどこかは一ミリもわかんないんだけど。
「? なんだこれ」
歩くとゆらゆらと視界の中で揺れる何かがあった。
それにいつもと何か違うような、変な違和感を体から感じる。
「髪……!?」
髪が異様に長い。
淡い薄緑色の髪は、直立しても地面にベタっとくっついている。
おかしい。そんなはずはない。
俺は男だし、ロン毛にしたことなど一度もないのだ。
「なっ……!」
ペタペタと弄りながら体の異変を確かめると、違和感の正体、その根源を掴んだ。
「いない……!」
俺の息子がいない!
いくら探してもどこにもない。
しかも確かに感じる胸の膨らみ。肌もなんだかいつもより白くてきめ細かい。
ていうか俺裸じゃん! 人いなくて良かったぁ。
またそれだけに留まらず、体のあちこちに変なものを発見した。
頭には角。背中には翼。尾骨部分からは尻尾が生えている。
「ど、どうなって……!?」
「うるさい、お前」
混乱の最中、不意に声が聞こえてきた。
咄嗟にそちらを向くと、玉座の影から一人の少女が現れる。
「静かにして、本読んでる」
そう言い放つと、少女はまた玉座の影へ。
先客がいたらしい。
あまりにも幼い、俺と同じとんがった耳の、桃色の髪をした少女だった。
「……ん? 誰、お前」
不意打ちに唖然として突っ立っていると、また少女が語りかけてきた。
正直自分がなんなのかよく分かんなくなってきてるが、とりあえず名乗っておくことにする。
「俺は……あ? あれ……」
名前が思い出せない。
俺は……俺はなんだっけ?
今までの記憶がなくなってるわけではないのに、何故か名前が思い出せない。
何がどうなってんだ……?
「ん? パパと同じ匂い……あ、お前パパの魔力からできたやつ?」
「???」
何言ってるんだ? この子。
「答えて」
「え、いや、よくわかんないんですけど……」
そう言うと、桃髪幼女はこちらをじっと見つめてくる。
少しの間見つめ合うと、彼女は口を開いた。
「まあいいや、そうだから」
なぜかは知らないが、納得してくれたらしい。
俺はどうやら、この子のパパの魔力からできたやつみたいだ。
勘弁してほしい。益々意味がわからなくなってしまった。
そもそも魔力とはなんだろうか。
ゲームなどで見かける言葉だが、なかなか現実で口にすることはない。
もしかしたらこの子は厨二病的なあれなのかもしれない。
「私が名付けてあげる。んー……」
どうやら名前をくれるらしい。
確かにないのは困る。ありがたく仮名を貰っておこう。
この名前で彼女が患者なのかどうかが決まる。
どうか慎重に選んで欲しい。
「シルヴァ……お前は今からシルヴァ・カレスティアだ」
厨二病決定である。